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「初めて獅子原君とここで話をした時に聞いたんだけれど」
そう言って父さんはまた額を掻く。きっとこれは父さんの癖だ。言い辛そうな顔をした時によくこれをする。
「聞いたって何を?」
「慧の為なら何が出来るってな。普通は火の海にでも飛び込める、とか言うだろ?」
「言わねぇよ」
そんなのどこの安っぽいドラマだよ。父さんの普通はちょっと変わってる……けど、今はそんなのどうでもいい。
「まあ、あれだ。慧のためなら死ねる、とか言うのかなと思ってだな…なかなか歯の浮くことを言ってた彼だし」
また額を掻いたってことは、リカちゃんは相当なことを父さんに言ったらしい。それも気になるけど大事なのはリカちゃんの返事。
一体なんて答えたのか…ドキドキしながら待つ。
「獅子原君は慧の為なら生きていけるって答えた。初めは何言ってるんだって相手にしなかったんだけどな…」
早く続きを。ずっと知りたかった言葉の意味を教えてほしい。
「お前の為なら頭も下げるし悪役にもなる。どうしたら幸せだと思ってもらえるか、どうしたら笑顔にできるか…それを1つでも多く見つける為に生きるらしい。
どんなことでもその人の為になるならと考えてしまうことは私にもわかる。そう思って今まで働いてきたからな」
父さんが仕事ばっかりしてる理由をリカちゃんから聞いた俺は黙る。だって何も言えないから。
それが俺の為だったってわかってるからだ。
「家族でもない彼がお前の為にそれをできるのは1つ」
父さんが俺を見て笑った。
すげぇ柔らかい笑顔だった。
「心の底からお前を愛してるんだろうな」
「愛し…」
「これはあまり言われてないんだろ?」
リカちゃんは『好き』と『可愛い』はよく言う。毎日のように、何気ない時にすら自然と出てくる。
でも『愛してる』は言わない。
鳥肌が立つぐらいキザなセリフは言われても、それはほとんど聞いたことがない。
「お前の為に自分のできる限りを尽くしたいってのは好き以上の感情だと認めざるを得ない。
死んでもいいと思うほど好きになって、愛するお前の為に全てを捧げて生きたい…そう本人も言っていたからな」
その時の様子を思い出したのか父さんが眉間に皺を寄せながら照れた。
これはきっと本当の話なんだろう。
死んでもいいと思えないのはそれ以上の気持ちだから。
リカちゃんは言葉を変えてずっと俺に伝えてくれてた。
「まさか自分の息子と同じ年の若者に恋愛とは何かを諭されると思ってなかった」
『恋と愛の違いを聞いたときの父さんの顔…思い出すだけで笑ってしまうよ』恒兄ちゃんが電話で言ってた言葉。
父さんを言い負かしたのも、説得したのもリカちゃん。
『俺はお前の為に生きてる』
リカちゃんは俺を楽しませて幸せにさせて、嫌なことと向き合えるように…1人じゃないって教える為にリカちゃんはいる。
その言葉を俺はどうせいつもの意味わかんねぇセリフだって考えようとしなかった。そして今も、なんでストレートに言わなかったのか、その理由が思いつかない。
でもこれは俺が自分で考えなきゃいけない気がする。
続けて話そうとする父さんに俺はストップをかけた。
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