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「続きはリカちゃんに聞くからいい」
このまま黙っていたら父さんは全て教えてくれるだろう。けどそれじゃダメなんだ。
どうしてそれを言ってくれないのかリカちゃん本人に聞かなきゃいけない。
「父さんは俺とリカちゃんのこと…どう思ってんの?」
返事を聞くのが怖くて俺は父さんを見れなかった。今の話の流れでリカちゃんに対してマイナスのイメージは無いってのはわかる。だからって完全に認められたわけじゃない。
父さんが立ち上がって窓まで歩いていく。
カーテンの隙間から車庫の方を見たのは恒兄ちゃんが帰ってきてないか確認したのかもしれない。
「私は父親らしい事は何もできていない。お前がどんな生活を送って、学校でどんな話をしてるのか。普段はどんな風に過ごしているのかを知らない」
それは父さんは何も聞いてこないからだ。そして俺だって聞かれても答えないだろう。
リカちゃんのおかげで少しはマシになったけど、俺はまだ父さんを許せてはいない。
「前に彼が迎えに来たことがあったろう。あの時、気付いたことがある」
「前にって…夏休みのやつ?」
「そうだ。私には一瞬たりとも笑わなかったお前が獅子原君を見た時、安心したような顔をした。それを見て思ったんだよ。きっと慧が1番に頼るのも求めるのも彼だ」
父さんの言っていることは難しくて、まわりくどい。ハッキリ言ってくれたらいいものを遠回しに言う。
「自業自得だと、嘘だと言われても私が本来目指していたのはそこなんだよ。結局はどうしていいかわからなくて仕事に逃げていたけどな。私はお前に目に見えるものしか与えてやれない」
「父さん……」
「目に見えないものを信じるのは難しい。ましてや家族でも何でもない彼が、この短時間でお前の信頼を得たのはお前に対していつも真っすぐだったからだろう」
リカちゃんは意地悪でずるくて、秘密ばかりだ。
でも俺に嘘はつかないし誰よりも早く俺の変化に気付いてくれる。
ふとした瞬間に視線を感じて、振り向けば少し離れたところで笑っている。その笑顔はすごく柔らかくて、 胸がキュッとなって、でも温かくなる。
「これは私の勝手な見解だけど…きっと彼はお前の全てになろうとしてるんじゃないかな。無条件で味方でいて、けれど時には厳しく必要であれば突き放す。今はその時なんじゃないか?」
「突き放す?なんで?」
「この先、お前は多くの選択をして生きていく。進学だけじゃなく就職、それ以外にも分岐点が絶対に訪れる。その度にお前は彼と一緒にいる為の方法を選ぼうとする」
それの何がいけないんだって父さんを見つめる。
「考えてごらん。もし自分が彼から同じことを言われたらどうする?お前といたいから仕事を続けるって」
「別に…嫌な気はしねぇけど」
むしろそれは嬉しい気がする。答えた俺に父さんは表情を変えない。
「お前といたいから、これを選ぶ。お前といたいからそっちにする……それがいつまで続くか不安にならないか?今回が選ばれたからって次もそうとは限らない。
いつまでも選ばれる自分でいるのは苦しいだろうね」
俺はリカちゃんに残酷だって言われた。いつまで選ばれなきゃダメなのかって言ったあの言葉はリカちゃんの本心だ。
今まで言わなかったんじゃない。
何かあると、いつもリカちゃんを選ぶ俺だから言えなかったんだ。言ってしまえば俺が何も出来なるから自分で気づかせようとしてくれた。
でも俺は最後まで気づかなくて、逃げ続けた結果こうなった。それを父さんに見透かされて何も答えられない。
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