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「慧はさ、なんでリカちゃん先生が離れようって言ったかって理由は聞かなかったのか?」
「それは…そういえば俺、聞いてない。理由は聞いてない気がする」
「なんで?」
頭の中では何度も考えたけど本人には聞いてない。聞こうしたかも怪しい。
離れるのは嫌だって言ってたし俺がどうしたいかは言った。でもリカちゃんがどうしたいのかは聞いてない。
俺はリカちゃんが離れたい理由を聞いてない。
「リカちゃんはなんで俺と離れたいんだろう…」
「お前から離れたいなんてありえねぇ。そんなの思ってるわけないだろ」
「歩?」
歩の名前を呼んだのは拓海なのに、なぜか俺を見る。俺だけを真っすぐ見つめた歩がはっきりと言った。
「兄貴がお前から離れたいなんて思うわけがない。本当に離れたいって言われたのかちゃんと思い出してみろよ」
チクチク痛む胸を押さえつつ、俺はリカちゃんとの会話を思い出した。
「離れ…離れた方がいいって言われた。そうだ、リカちゃんは離れた方がいいって言った」
「ほらな。どうせそれ言われて感情的になってケンカしたんだろ。そうなる前に相手がどんな顔してて、どんな声でどんな雰囲気でそれを言ったか考えてみろ」
リカちゃんは1度目の修学旅行ではすごく落ち着いて淡々と話してた。点呼の時間まで計算して俺を部屋に返す余裕だってあった。
そして2度目。2度目は珍しく声を荒げて、その後辛そうにしてた。俺に逃げるな、疲れたって言って俺を部屋から追い返した。
リカちゃんらしいところと、リカちゃんらしくないところがある。
「どう考えても兄貴はお前が好きだろ。好きっつーか…あれはもう異常だ」
「異常って何が?」
まだわからないのか、歩の目がそう訴えてくる。
「慧はもう慣れてるんだろうな。何かあったら兄貴が助けてくれる、兄貴は慧の為に何歩も先を行ってて準備して待ってるから」
いつだって俺が困った時にはリカちゃんがいた。鷹野に襲われた時も、1人だって自暴自棄になった時も、もしかしたら飽きられたんじゃないかって不安になった時も。
どんな時も俺を助けてくれたのはリカちゃんだった。
リカちゃんはタイミング良く現れる。
そしてリカちゃんしか現れない。
「慧、それは普通なんかじゃない。普通はそんなに上手くいかない」
「歩。お前何か知ってんのか?」
きっと歩はリカちゃんが裏で何をしてたのか知ってる。そして多分…拓海も同じ。なぜなら、いつもなら騒いだり口を挟んでくる拓海がずっと黙ってるからだ。
「なあ。2人は何を知ってんの?教えてくれよ…俺、このまま何も知らなくてリカちゃんと離れるの嫌だ」
頼むと頭を下げた俺に2人が顔を見合わせた。静かに首を振ったのは歩だ。
「俺じゃ上手く説明できないと思う。俺は慧を傷つける」
立ち上がった歩は俺に向き直る。
「慧。俺はお前の友達だけど兄貴の弟だから。どっちかの味方をするのは無理。絶対にキツイこと言うと思うから拓海に聞いて」
それは歩の優しさなんだろう。俺とリカちゃん両方の味方だから…歩は俺の数少ない友達でリカちゃんの実の弟。きっと俺が歩の立場なら苦しいと思う。
屋上から出て行った歩をもちろん俺は追いかけないし責めない。
「慧、これは本当は秘密なんだけど…」
拓海から聞かされた話は俺の想像を遙かに超え、どうして俺はリカちゃんに咄嗟とはいえ酷いことばかり言ったんだと泣きたくなった。
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