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言葉を選んでる余裕なんて俺にはない。拓海に言われた通り思ったことを口にする。大切なのはただ喚くんじゃなくて話をすることだって、父さんが言ってたのを思い出しながら。
「自分なりに考えて、やっぱりリカちゃんと一緒にいたいって思う。それは変わらないんだけど、」
俺の言ってることは正しいんだろうか。リカちゃんを盗み見る。まだ足りないんじゃないかって窺う俺に、リカちゃんは微笑んだ。
「続けて」
肩にかかるジャケットの裾を握る。どう言ったら相手を傷つけないかなんて今まで考えたことなかった。人の気持ちを考えるってすげぇ難しい。
「考えれば考えるほど自分が間違ってるんじゃないかとも思った。何が正解かわかんなくなった」
本当は気付いてた。みんなが前に向かっていくのに俺だけは真逆にいってるって。でも別にそれでいいと思おうとした。
俺にはリカちゃんがいる。どんな選択をしてもなんとかなると思ったんだ。
だからそのリカちゃんに否定されて何も考えられなくなって、嫌だって言って。そして考えること自体をやめた。待っていればまたリカちゃんが仕方ないなって笑ってなんとかしてくれると思った。
「慧は間違ってないよ。正解なんて初めから無いんだから、わからなくて当然」
今日のリカちゃんは特別優しい。どんなことでも聞いてくれるし答えてくれる。
「俺も初めはそれでいいと思った。慧がそうしたいならそうするべきだって」
静かな部屋にリカちゃんの声はよく通る。スッと頭に直接入ってくる。
「でもそれじゃ俺たちはずっと今のままだしお前は何も変わらない」
「それの何がダメなんだよ?!俺はっ…」
俺が望んでるのはそれなんだ。今をずっと続けたい…それなのにリカちゃんは許してくれなくて、ダメだって言うから苦しくなる。
「俺はいつまでもこうしてたいのに……」
リカちゃんが隣に越してきてから色々あったけど、それでも俺たちはずっと一緒だった。母さんがいなくなって、星兄ちゃんがいなくなってまた1人になって。
やっと俺が見つけたのがリカちゃんなのに。
やっと1人じゃないって、いつも一緒にいてくれる、いつでも俺を見ててくれる人を見つけたのに。
「もう1人は嫌だ」
もう置いて行かれるのは嫌。またいなくなるんじゃないかって不安になるのも、1人にしないでって言うのも嫌なんだ。
学校に行けば歩や拓海がいる。それでも家に帰れば1人きりだった生活。俺だけの、俺だけを特別だって言ってくれる人がほしかった。
「慧は1人じゃない」
「でも離れるんだろ?!」
「離れるからっていなくなるわけじゃない。そんな簡単に終わりになんてしない」
そんなのわからない。俺が捕まえていないと、必死にどこか握っていないとまた戻ってこないかもしれない。
また嫌だ嫌だって気持ちが溢れて俺はリカちゃんを責める。声を上げて睨んで、でもリカちゃんは黙ったまま全部受け入れてくれる。
「なんで離れる必要があんの?そんなに離れたいなら別れるって言えばいいだろ!!」
もう嫌なんだ。帰ってくるんじゃないかって期待して捨てられるのも。今度こそ俺を見てくれるんじゃないかと思って無視されるのも。
母さんも父さんも…俺を見てくれなかったから。たとえそれに理由があったとしても、それでも嫌だった。いっぱい泣いて、いっぱい待って。けど叶わなかったからもう待つのは嫌なんだ。
いっそ終わりだって言ってほしい。そうしたら楽になる。また前みたいに、何も考えずにぼんやり過ごせる。
怒鳴ったからか、俺の肩らジャケットが落ちた。それを拾い上げたリカちゃんがかけ直してくれる。
その手が俺を落ち着かせるように頭を撫でてくれた。
「相変わらず怒らなきゃ素直になれないんだな。
ずっと言ってるだろ。俺は嘘はつかないって」
リカちゃんがやっと俺に触る。握り締めていた手に触れて、ゆっくりと開かれる。
「嘘はつかないってお前と約束した。だから別れたいなんて言えない」
手のひらから指先まで辿って、ゆっくりと絡まる。ひんやりとしたリカちゃんの手が俺の体温で柔らかくなっていく。握り返すか悩んでいると、繋いだ手とは反対の手が重なった。
「本音を言ってしまえば離れたくない。それでも、俺はお前の先生でお前の為に生きてるから離れた方がいい」
その言葉の意味を俺はもう知ってる。
俺の手を握ったまま、リカちゃんは真っすぐ見つめてくる。
真剣な瞳で、真剣な声で本当の気持ちを本当の言葉で教えてくれる。
「愛してるんだ。どうしようもないぐらいに、心から愛してる」
その言葉に堪えていた涙が零れた。
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