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「やっば…どれがいいかわかんねぇ」
ショーウィンドウに並ぶキラキラしたケーキ達。俺の好みでいくならチョコレートケーキ一択だが、それじゃダメだろう。
その中から何種類か選んで店員に告げる。俺の分、恒兄ちゃんの分に父さんの分と選んで言葉に詰まった。
「以上でよろしいですか?」
笑いながら聞いてくる店員。そんなわけないのに「また逃げるのか」って言われたように感じた。
「チョコレートケーキ…もう1つ追加で」
あの女の分を俺は頼んだ。
リカちゃんから離れることを決めて1週間以上が経った。
俺なりに色々してみた。例えば今まで全く見てなかった大学のパンフ見たり、ネットで検索したり。
すぐに何かが変わるわけじゃないし、何か見つかるわけでもない。でも立ち止まりたくはない。
嫌なことから逃げてるって言われて…まずそこから治そうと思った。でも俺の嫌なことって最終的にリカちゃんに繋がるんだ。
リカちゃんと離れたくないから余計なことは考えたくない。リカちゃんの傍にいたいから余計なものは見たくない。
どんなに考えても、どんなに自分と向き合おうと思ってもそこに繋がってしまう。
その中で唯一、俺がリカちゃんは関係なく避けてるもの。それはあの女だ。俺はあの女に、母さんに会う。
会ってどうするかは決めていないけど…とりあえず会う。勢いが大事だっていう拓海の言葉を信じる。
「どうしよ。ホンマにわからへん」
横から聞こえた声に視線を向ける。するとそこには着物を着た男の人がいた。
サラサラの黒髪に少し大きめの目でショーウィンドウをじっと見つめる。
「やっぱり定番のいちご?けど捻りが無さすぎるって言われへんやろか…」
聞き慣れない言葉でブツブツ言う男が俺に気付きペコリと頭を下げた。
つられて俺も返してしまったけれど、知らないヤツだからそのままショーウィンドウに向き直った。
「なぁなぁ。君、高校生?それとも大学生?」
「へ?」
「いやな、今から専門学校の子らに会うんやけど…今時の子ってどんなんが好きなんやろ?」
「どんなって…普通にいちごとかチョコレートとか」
慣れない関西弁で問いかけられ思わず答えてしまった。そんな俺にその男は頷く。
「やっぱいちごとチョコレートは鉄板やな!あとは?」
なんだろうこの馴れ馴れしさ。適当に目に付いたのを選んだ俺に男は復唱して店員に伝える。
その数ざっと20はあるだろう…どんだけ買うんだよと不思議だった。
どうやって大量のケーキを持つつもりなのか、会計を済ませた男が俺を見る。
「ありがとう、助かった」
「いえ…」
箱に詰め終わったところで店内に入ってくる数人のスーツ姿の男達。男の代わりにケーキの入った箱を受け取り、出て行こうとしてまだ俺を見ている男を振り返る。
「由良さん」
由良と呼ばれた男。
それが俺に見せるのとは全く違う、冷めきった表情で応える。
「なんやねん。気安く話しかけんな」
「ですが時間がもう、」
「うっさいなぁ…そんなん向こうを待たせたらええやろ。
そもそも、なんでわざわざ俺が出向かなあかんの?あいつに行かせればええのに…こういう時のあいつやろ」
冷たい視線に冷たい声。自分よりも年上に対しての横暴な返答。
「だっる……あぁ、ごめんな」
そうやって俺に向ける笑顔は綺麗なのに、なかなかキツい性格の男だなと思った。
「ホンマにありがとう」
最後にお辞儀をして男は爽やかに出て行き、俺も自分の分を受け取って店を出た。
*
「世間は狭いなぁ…すぐ見つけてもたやん」
店から出た俺はクスクスと肩を揺らす。
「由良さん急がないと」
話しかけてくる名も知らぬ付き人に冷笑を浴びせた。
「お前の息臭いねん。二度と話しかけんなゴミが」
それでも今の俺は機嫌がいい。話しかけなければクビにはしない。
開けられたドアから車に乗り込む。スモークガラスを通して見る、理佳の宝物とやらはゆっくりと反対の方へと歩いて行った。
頭に浮かぶ嫌味で澄ました顔が歪んでいく。それが酷く心地よくて俺は笑いが堪えられない。
「ふふっ。今日はええ日やなぁ」
俺の問いかけに有能なゴミは声を出さずに頷いた。
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