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「だろうな」
「でしょうね」
見事にハモった2人の声。
「え、なんで?」
誰にも言ったことないのになんで?これはリカちゃんにすら言ったことない話。それなのに2人は知っていたかのように平然としている。
「なんで?」
繰り返す俺に歩は呆れた顔で俺を見た。
「むしろなんでバレてないと思ってんだよ。ずっと兄貴と一緒にいて兄貴見てるお前ならそう思って当然だろ」
「そうねぇ。ウサギちゃんにとって1番身近な職業って言ったらそれ以外にないわね」
てっきり否定されると思った。歩には特に。けれどそんな素振りなんて見せずにタバコを吸っている金髪は無表情だ。
いつもと変わらない歩だった。
「いいんじゃねぇの。お前に向いてるとは思わねぇけど」
「歩?」
「お前みたいなすぐキレる担任とか俺は嫌だけどな」
それ以上何も言わない歩はテーブルに置いていたスマホでゲームを始めてしまった。その代わりに今度は桃ちゃんが俺に話しかけてくる。
「ウサギちゃんってお母さんも教師なんでしょ?セイも教師になりたがってたし、なによりリカがいるし」
「だからダメって言われるかと……」
「どうして?周りを見て興味持つのは当然だと思うけど。いいところだけじゃなく嫌なところも知ってて、それでも興味あるんでしょ?」
それはそうだ。リカちゃんが普段どれだけ忙しそうなのかも知ってるし、あの人が生徒に苛められてるって話も聞いた。それでも続ける2人を見てると、やっぱり気になってしまう。
まだ気になるってレベルなんだけど…でも、他の何かをって考えても思いつかない。
「よし!じゃあウサギちゃんは教育学部目指しましょう」
「俺が…教育学部」
「って言ってもたくさんあるのよ。今の家から通えるところも多いわ」
そう言って桃ちゃんが教えてくれた大学は聞いたことあるところばかり。俺が入れそうな学校じゃなく有名で頭のいい大学だ。
「いや…俺には」
どう考えても俺にはレベルが高すぎる。教えてくれた桃ちゃんには悪いけど現実的じゃない。
「そうね…いくら興味があっても入れなきゃダメだものね」
「桃ちゃんごめん、俺がバカ過ぎて」
2人してしょんぼり落ち込んでいるとスマホの画面から顔を上げた歩が俺たちを見た。
「慧、お前さ……俺と一緒のところにしとけよ」
「歩と一緒って国公立だろ?俺がいけると思うか?」
「ああ、あれやめた」
さっきから一切表情を変えないままの歩が続ける。
「色々考えて俺やっぱり今から全教科やんのって無理。それなら絞って私立入って、働いてから奨学金返す方がいいだろ」
歩らしくない大人の意見になんか変だなって思う。1度やるって言ったら聞かない歩なのに急に変わった考えが不思議だ。
「…どっかのお節介な先生がやたらと言ってくんだよ。俺は確実な方法で進んだ方が早道だって」
「確実な方法…ってなんだ?」
「自分の意地と叶えたい夢とどっちが大事かって考えたら悔しいけどアイツが正しい」
本気で悔しそうな顔をするってことは、それを言ったのはリカちゃんだろう。歩の夢っていうのが何かは知らないけど…プライドの高い歩が折れるって相当だと思う。
「俺は家から通える範囲で頑張れば手が届くとこにいく。でも手が届くってだけであって、妥協はしてねぇ」
最近の歩はちょっと男っぽい。ちゃんと芯があって、でも状況に合わせることもできる…そう思うと歩って変わった。
偉そうだけど優しいところもあって、子供かと思ったら落ち着いてて。俺の1番近い目標…な気もした。
もちろん本人には言わないけどな。
「俺の志望大学にも教育学部ある」
「歩も教師になんの?」
そう聞いた俺に歩は白けた視線を向ける。
「なんねぇよ…俺は違う学部。誰があんな変態教師になるか」
「ねぇ、別に教師の全てが変態じゃないと思うの。あいつが変態なだけよ」
歩と桃ちゃんが言ってる変態教師はあの俺様ドS野郎だ。いないところでも話題になるリカちゃんはさすが…だけど今はちょっと聞きたくない…かも。
「俺と同じ大学だったら兄貴も納得すんじゃねぇの」
「なんでだよ」
「だって俺にそこ勧めてきたの兄貴だし…それに、」
寝転んでいたソファから身を乗り出した歩が俺の顔のすぐ近くでニッと笑った。最近ますます嫌味さが増した偉そうな顔で、偉そうに言う。
「大学でもお前見張っとけるってわかったら喜びそうだけどな」
歩から漂うリカちゃんと同じタバコの匂い。けれど目の前にあるのは綺麗な黒髪じゃなくて目が眩みそうな金髪。
「残念だったな慧君。お前には大学デビューも合コンも縁がなくて」
「……アホか。そんなのしねぇよ」
からかわれた俺の後ろで悲鳴を上げるのは、もちろん。
「ちょっとちょっと!!!歩ちゃん!」
「なんすか」
ダルそうに答えた歩に桃ちゃんの手が伸ばされる。
着ていたパーカーの襟元を掴んで歩を引き寄せた桃ちゃんが、普段からは考えられないほど低い声を出した。
「今なんて言った?合コン?調子乗んなよクソガキ」
「……………俺が行くわけねぇだろ」
「今すぐ女抱けない身体にしてやろうか?アァ?!」
「桃さん、素出てるから。行かないから元に戻って」
歩の襟を掴んで詰め寄る桃ちゃんと、それに苦笑いしながら答える歩。いつも俺たちをバカップルだと言ってくるくせに2人も大して変わらない。
鳴らないスマホを見つめて、アイツは今何してるんだろうか考えた。俺の着信履歴からリカちゃんがどんどん消えていくのが悲しい。
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