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目の前には踊りながら歌う由良さん。時々、俺を見てはウインクを飛ばし、たまに歌詞を忘れて照れたように笑う。
由良さんが俺を連れて来たのは駅前にあるカラオケボックスだった。そして今ノリノリで歌っている。
続けて2曲歌い終えた由良さんがマイクを置いた。
「ええな!!久しぶりに歌ったらスッキリする」
「そう…です、か」
「慧君は歌わんの?歌うの苦手?」
まずほぼ初対面に近い状況でよくここへ連れて来たなってのと、よく堂々と歌えるなってのと。どれからつっこめばいいかわかんない。
この状況が歩にバレたら確実に怒られる。押しに弱すぎだって呆れられるに決まってる。
「カラオケなんて何年ぶりやろか」
歌を選びながらそういう由良さんの横顔は少し寂しそうだ。
「あんまり行かねぇの?」
「行きたいんやけどなぁ…友達おらんから」
友達がいないって、こんなにあっさり言えることなんだろうか。普通は言いたくないことだと思うんだけど…
「俺めっちゃ嫌われてんねん。性格悪いんかな?」
「へぇ」
すげぇ返事に困った。だって、そんなことないって言えるほど俺は由良さんのこと知らないし。
「なんでやろなぁ。思ったことを言ってるだけやのに」
タッチペンを動かしながらも由良さんは続けた。
「俺を悪く言ってるやつがおんねん。そいつはめっちゃ要領よくて外面もいいからみんな騙される。みんなそいつの味方する」
「なんか…それ嫌だな」
「せやろ?!だから俺そいつのことめっちゃ嫌い………おらんくなったらいいのに」
最後だけ声が急に低くなった気がした。でも由良さんは今までと変わらず笑っていて、俺の気のせいだったのかもしれない。
「由良さんって何歳?」
由良さんがまた何曲か歌って休憩してる間に俺は聞いてみた。
「何歳に見える?」
「えっ…27か8とか?」
大人の男の人の年齢ってわかんねぇけど、多分リカちゃんと変わらないぐらいかなって思った。
いや、リカちゃんは実年齢よりかなり若く見えるんだけど。
「ちゃうちゃう。実はこう見えて32歳!」
「え?!」
「なんなん。そんな子供っぽいか?」
子供っぽいかどうかは置いておいて、まず30歳を越えてるようには見えない。その行動、仕草全てがだ。
「実は子供も5人いてるねん」
「マジで?」
「それは嘘」
「………」
ケラケラ笑った由良さんのスマホが震える。その画面を見て嫌そうに顔を顰めた。
「もう見つかってもたわ。しつこいやつら」
「見つかった?」
「ストーカーみたいなもん。俺だけ自由が無いって不公平やと思えへん?」
なんの話か首を傾げる俺に、由良さんは震えっぱなしのスマホを締めていた帯に隠した。
「さ、そろそろ時間もないしラスト歌おか。慧君、最後ぐらいは一緒に歌ってや」
「あぁ…うん」
由良さんが選ぶ曲は最近の流行りが多くてリカちゃんと全然違う。
ノリが良い曲を選ぶのが由良さん。バラードとかしっとりした曲が好きなのがリカちゃん。
「俺、結構上手いやろ?」
ふふんと笑って言う由良さんだけど…俺はやっぱりリカちゃんの歌い方と声の方が好きだ。心でそう思いながら「うん」と答えた。すると由良さんは何も返してこなかった。
「慧君、俺しばらく東京おんねん。だからまた遊びに行こう?」
「でも俺は勉強が…」
「たまには息抜きも必要やで」
カラオケボックスを出た先で押し付けられる形で連絡先が渡される。
「じゃあまたな」
手を振って駅まで歩いて行った由良さん。俺もそれに背を向けて歩き出す。渡された連絡先をどうしていいかわからず、ポケットに突っ込んだ。
気付けば時間は9時を軽く越えていて、心配して待っているアイツがいるなんて俺は知らなかったんだ。
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