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マンションに着いてオートロックの扉を通り、俺はポストへと直行した。ロックを解除して開けた中には朝には無かったハガキが入っている。
送り主は心当たりのない店で、間違ってんじゃないかと宛先を見た。
そこに書いてあったのは俺の隣人の名前、獅子原理佳宛だった。
時間は10時になるかどうかってところ…きっとまだ起きてるはず。
どう見てもただのダイレクトメールを持って行くべきか、行くまいか悩んで悩んで悩んで…素直過ぎる身体がインターホンを鳴らしていた。
何か言われるか、もしかしたら無視されるんじゃないかと思っていた扉が急に開く。
そこから現れたリカちゃんは髪を後ろで結んで眼鏡姿…だけど部屋着じゃなく外出着を着ていた。
「え、あ…えっと出かけるところ…だった?」
「いや、うん。まあ大丈夫」
リカちゃんが言葉を切って俺の手元を見る。
「本屋行ってた?」
「あぁ、うん」
「………それにしては遅すぎだろ」
何か言われたはずが聞こえなくて俺はそれに聞き返す。
「何?なにか言った?」
「別に」
手に持っていた車のキーを靴箱の上に置いたリカちゃんが俺を見た。
こんなに近くで向き合うのは数日ぶりで…もう今は学校でのリカちゃんしか見れないから苦しくなった。手を伸ばせば触れられる距離。そこにいるのに触れなくて触ってもらえない。
見えない壁が2人の邪魔をする。
「どうかした?」
俺が来た理由を尋ねるリカちゃんに間違って入っていたハガキを差し出す。受け取ったリカちゃんはそれを確認して車のキーの隣に置いた。
訪れる沈黙。もう用はない……んだけど帰りたくない。
リカちゃんを思い出しちゃうからつけるのを止めたバニラの匂い。それが部屋から、リカちゃん自身から香ってきて切なくなる。
どうしよう。帰りたくない。
このまま部屋の中に入って一緒にいたい……けど、それはダメで。
グッと唇を噛んで耐えた。
「じゃあ俺は…」
「あの、さ」
帰ろうと足を引いたところでリカちゃんに引き留められる。嫌でも心が期待する。
「あー…その、余計なお世話だったらいいんだけど」
「なに?」
「晩飯って済ませた?実はちょっと作り過ぎちゃって」
まだだって答えた俺にリカちゃんは家の中を見て、俺を見てそしてなぜか苦笑する。
「持ってくるから待ってて」
そう言って消えていく背中を玄関から見届ける。
多分……前までの俺なら走って追いかけて、嫌だって、やっぱり離れるのは嫌だって怒鳴ってたと思う。けれどリカちゃんが俺の為にどれだけ考えて行動してくれたか知ってしまったから出来ない。
相手のことを思うって…こんなにも大変なんだ。
大変で、苦しくて辛くて、そして切ない。
「お待たせ」
戻ってきたリカちゃんからはそんな様子は感じられない。
それを全部隠してしまえるのは大人の余裕ってやつなんだろうか。
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