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「はい。このまま温めて食べたらいいから」
「わかった…って作り過ぎたってレベルじゃねぇよ」
リカちゃんに渡された紙袋の中にはぎっしり詰まったタッパーの山。受け取った瞬間にすげぇ重たくて驚いた。
「あー…うん。1週間分はあるから冷凍しといて」
「なんで?」
「ちょっと時間潰す為に」
今はテスト前で忙しいはずなのに時間を潰す?その意味がわかんねぇ。
「こういうの作ってると気が紛れるんだよ」
「へぇ。相変わらず変わったヤツだな」
「お前は相変わらず生意気だよな」
憎まれ口を叩いた俺にリカちゃんもいつも通り返してきた。そして、俺が受け取った紙袋の上に小さなビニール袋を置く。
それはマンションから少し離れたところにあるコンビニの袋だった。
「どこか行くところじゃなくてコンビニの帰り?」
「まあな」
「でもなんでここ?もっと近いとこあんじゃん」
徒歩数分のところにある店じゃなく、どうしてここなんだろう?
「気分。いいから学生は飯食って早く寝ろよ」
さっきまでの言い淀んでいたリカちゃんは消え、いつもの偉そうな俺様リカ様に戻ったリカちゃんが俺を見下ろす。俺もそれを見上げた。
ジッと見つめ合って数秒、小さく笑ったリカちゃんが下がった。
「じゃあおやすみ」
それは別れの合図だ。もう今日はお終い…触れることもキスすることも、一緒に寝ることもないんだってことが確定した。
当然なのに言葉にされるとショックだ。
「おやすみ」
俺もそれに返してドアノブに手を伸ばす。意地で振り返らずに部屋を出た。
自分の家に戻ってリカちゃんから受け取った紙袋からタッパーを取り出してみる。
色んな料理が詰められていて、そのどれもに丁寧な綺麗な字で料理名が書かれたラベルが貼られていた。
「リカちゃんの嘘つき…こんなの作り過ぎたんじゃねぇだろ」
そこにあるのは俺の好きな料理ばっかり。苦手な野菜は細かく切って使ってあるところがリカちゃんらしい。
最後に渡された袋から出てきたのは俺が大好きなお菓子の新商品だった。いつもリカちゃんに飯の前に食べるなって怒られてたお菓子。
リカちゃんは普段からお菓子なんて食べない。
全部俺の為に用意してくれてた物。もしかしたらまだ帰ってきてないことに気付いて探しに来てくれた?そう思わせるぐらいに『俺の為』だった。
温め直さずにつまみ食いした料理はすげぇ美味しくて、懐かしくて、そして優しい味がする。
コンビニ弁当かカップ麺ばっかり食べてた身体が久々の手料理に喜んだ。でも、それ以上に心がぽかぽかする。
夢中になって食べていたら途中から味が変わった。さっきまで必死に堪えていた涙が頬を伝い、落ちていく。
隣にリカちゃんがいないのが嫌だ。会えないのが嫌だ。話を出来ないのが、触れないのが、触ってもらえないのが嫌だ。
何よりも、ここまでしてもらって応えられない自分が嫌だった。
1人ぼっちの夕飯を終えた俺は机に向かった。1問解けばリカちゃんに近づくと思えば頑張れる。あともう1問、ラスト1問。頑張れば頑張る分だけ近づくと思えば自然と手は動く。
朝起きて隣にリカちゃんはいないけれど、家のあちこちにはリカちゃんとの思い出がある。
また一緒にテレビを観て飯を食べて笑いたい。
リカちゃんと過ごす未来を想像すると前向きになれる。
こうして俺の1日がまた始まる。
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