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桃との電話を切った後、なかなか帰ってこないウサギを俺は1人部屋で待った。どこにいるんだって俺から連絡ができない状況がもどかしい。
影から見守るって言ったのは自分のくせに自制がきかない。本当は今すぐ迎えに行きたい。話を聞いてやりたいし助けてやりたい。
でもその気持ちを必死で抑えて、抑えて、抑える。
こんな状態で仕事なんかできなくて俺はキッチンに立った。冷蔵庫にたくさんある食材。癖で2人分買ってしまったそれらを使って思いつく料理を作っていく。
料理に没頭すれば時間は忘れられる。
それでも気付いたら無意識にお前の好きなメニューを作っていて、お前の嫌いな野菜は気付かれないよう工夫していて。
そしてやっぱり2人分出来上がっていた。
どんどん完成していく料理と進む時間。それなのに隣人は帰ってきた気配がない。
途中で鳥飼と会って飯を済ましてるのかもしれない。それとも何か欲しい物があって買い物でもしてるのかもしれない。
それならいい。でももし…もし……事故にあっていたら?何か事件に巻き込まれていたら?
そう思うと居てもたっても居られなくて俺は家を飛び出していた。
近くのコンビニにはいなくて、少し離れた方の店にもいなくて…落ち着く為にコーヒーでも買おうかと中に入り、出てきた俺の手には自分が食べない菓子が握られていた。
それはお前が発売を楽しみにしていた期間限定のもの。普段の何気ない会話ですら忘れられないなんて重症だと思う。
「もうどうかしてるよな…」
自分で自分に笑ってしまう。ストーカーだお母さんだって言われるのも納得だった。
一度マンションに帰り、今度は駅の方まで行ってみようかと車のキーを手に取った。そのタイミングでインターホンが鳴った。
確認もせずに開けた扉の向こう。
「え、あ…えっと出かけるところ…だった?」
いつもと変わらないお前がいた。
心臓が止まるんじゃないかってぐらいに驚いて、そして安心した。
それと同時に久しぶりの会話に胸が高鳴った。
「おやすみ」
そう言って帰って行った背中。こちらを振り返ることのない姿に名前を呼ぼうとしてやめる。
『おやすみ』だった。『さよなら』じゃなかった。
ただその事実だけが嬉しくて、また明日からも頑張れる。
また明日からも耐えてみせる。
部屋に戻った俺は残りの仕事を片付けて、いつもお前が使っていた枕を隣に眠りにつく。
一緒に眠っていた頃は見なかったあの日の夢を今また見始めてる…なんて言ったらお前はどう思うだろう。
情けない自分。必死な自分を見せてはいけない。
お前が求める完璧はまだまだ遠く、まだまだ足りない。
もっと頑張らないと。
もっともっと…もっと何でも出来る男にならないと。
朝起きて隣にお前がいないことに絶望して、そうして俺の1日がまた始まる。
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