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「お前どこ行ってたんだよ」
戻ったファミレスの店前で仁王立ちで待つ金髪。店の迷惑にならないよう少し横に避けてはいるが、ド金髪の仏頂面が立っていたら営業妨害になるだろう。
「ウサギが人待たせてんじゃねぇよ」
「お前いっつも遅れて来るくせに偉そうにすんな」
歩が鞄から出した紙の束を受け取り、なんとなく開く。桃ちゃんが忙しい中作ってくれたこれがあればテストは大丈夫のはず…早く帰って頑張ろうと鞄にしまった。
「桃ちゃんにお礼言わなきゃ。今日も仕事?」
「あー…うん、それなんだけど」
「なに?またケンカしたのか?」
なんか言い辛そうな歩は、言うか言わないか迷っている素振りをする。ここまで態度に出して隠されるのは後味が悪くて俺は歩に催促した。
「今度はなんでケンカしたんだよ」
「そうじゃなくて……いや、うんまあいいか。言うなって口止めはされてねぇし」
勝手に悩んで勝手に解決した歩は俺を見下ろして偉そうに言った。
「それ作ったの兄貴。だから英語以外はあるけど、英語は自分でなんとかしろよ」
「……今なんて?」
「英語は無いって言ったんだよ。さすがに自分の教科のヤマは教えてやれないもんな。ウサギバカでも一応は教師なんだし」
「俺が聞いたのはそこじゃねぇよ!」
歩がなんて言ったのかわからなくて聞きなおす。本当はわからないんじゃない、まさか…って思ったんだ。
「だから作ったのは兄貴だって言ってんだよ。いくら桃さんでも現役の教師に勝てるわけねぇから」
「リカちゃんが?なんで?」
「そんなのお前の為に決まってんだろうが。いつも兄貴に教えてもらってたお前が1人でなんとかするなんて無謀過ぎんだろ」
俺は急いで鞄から手作りの問題集を取り出した。パソコンで作られたそれはリカちゃんの字じゃない…けど、ところどころに手書きの説明書きがある。
綺麗で見覚えのある文字。それは、俺の教科書にも時々出て来るリカちゃんの文字だった。
「自分もテスト作りで忙しいくせにバカじゃねぇの」
そう言うくせに歩は呆れた顔じゃなく寂しそうな悲しそうな顔をしている。
「リカちゃんがこれを…」
「だからいつも言ってんじゃん。あのバカはお前のことしか考えてないって。だって俺の分無いからな」
「え、なんで?」
「なんでって…それお前用にお前の苦手なところ中心にまとめてあるから。1人だけ特別扱いとか教師としてマズいだろ」
リカちゃんが俺の為だけに作ってくれた、俺だけの問題集。日頃俺の勉強を見てくれてたリカちゃんにしかわからない、俺が苦手なところを重点的に考えてくれたそれ。
握る手に力が入る。プリントに皺が寄って、視界がぼやけてきた。
「ちょっ…こんなとこで泣くなって!」
「泣いて、ねぇし」
グッと涙を堪えてその表紙を見つめた。
きっと今もすげぇ忙しくて、残業続きのはずなんだ。だって帰ってくるのも寝るのも遅いもん。
いつも遅くに帰ってきて、遅くまで電気ついてるの気付いてるから。
そんな中で俺の為に時間を割いてくれたのが…すっげぇ嬉しい。その前に心配しろよって話かもしれないけど素直に嬉しいと思った。
離れれば離れるだけ気付くことがある。
俺はいつもリカちゃんに思われてて大事にされてて守られてた。
そして離れれば離れるだけ思い知るんだ。
俺はやっぱり……リカちゃんがいないとダメだって。
誰とどんな風に過ごしても思い出すのはリカちゃんのことで、考えるのもリカちゃんのこと。
家でも学校でも、こんな街中でも俺はリカちゃんの姿をずっと探してる。今だってもしかしたら後ろにいるんじゃないかって思ってる。
「誰が俺の慧君泣かせてんの?」って乱入してきてくれるんじゃないかって思って後ろを見た。
そこには誰もいなくて、ただ虚しくなっただけだった。
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