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「そうか……夢か…そりゃ似てるよな」
自暴自棄になってアイツの身代わりをとか思ったけれど、まさかその身代わりが夢の慧だなんて笑えない。
笑えない状況なのになぜか顔が緩む。その理由は目の前にお前がいるからだ。
俺は頬に添えられた手に自分のそれを重ねた。
そうしないと今にも夢が醒めて、お前が逃げてしまう気がして…本当に無意識での行動だった。
「俺はもう駄目だな。他のヤツじゃ反応しなかったくせに夢でも慧だって思うと勃った」
素直すぎる身体が反応する。触れた頬から熱が伝わって心臓が脈打つ。
もっと触れたくて俺は慧の身体を引き寄せた。
柔らかくて温かくて懐かしい。
力をこめて抱きしめれば腕の中の慧が苦しそうにもがく。夢なのに、やけにリアルだった。
それだけいつも俺は慧を思ってる。いつも、どこにいても俺の世界の中心はお前しかいない。
「お前じゃなきゃ、慧じゃなきゃ抱けないし抱きたくない」
他じゃ身体が反応しない。声で気持ちは昂っても本物じゃなきゃ駄目で、たとえ夢だとしても慧ならそれでいいと思ってしまう。
「どうかしてるよ。他人よりも夢のお前を選ぶんだから」
勃ち上がった自身を夢の慧の身体に当てる。俺の願いが強すぎてだろうか、また慧の体温を感じた気がした。それが嬉しくもあり切なくもある。
こんなにも求めている君に夢でしか触れられない。本物はすぐ近くにいるのに俺には記憶の中のお前しかいない。
気づかないうちに抱きしめる力が強くなる。
「リカちゃん、苦しいんだけど…ちょっと離して」
「嫌だ。離したくない」
「力っ!力緩めろってば……っ!!」
逃げようとしたその身体を閉じ込める。暴れるのを今度は傷つけないよう優しく包み込んだ。
力を緩めたことによって夢の慧が、やっとおとなしくなる。
「慧君、俺の名前を呼んで」
「は?」
「いいから呼べよ」
「リカちゃん…もしかしてまだ酔ってんの?」
呼ばれた名前に心臓がトクンと跳ねた。
そうやって名前を呼んで、その瞳で俺を見てほしい。触れることを許してほしい。
他の誰でもなく俺を頼って俺だけを傍においてほしい。
もう何もいらない。俺が差し出せるものなら全て渡すから…だから誰も邪魔しないでほしい。
「リカちゃん?」
固まる俺に夢の中の慧が不安そうな声を出す。
「…っ、なんでもない」
思わず滲んでしまった視界を誤魔化すようにお前の肩に顔を押し付ける。
こんなことしたら泣いてしまったのがお前にバレてしまう…と思って、そういや夢なんだからバレてもいいんだって気付いた。
夢なんだから。これは全部俺の夢の世界の話なんだから言葉にしてしまっていいんだ。もう我慢せずに思ったことを今だけは伝えていいだろうか。
夢の世界のお前になら俺の弱いところを見せてもいいんだと気が緩んだ。
「辛い。苦しい………もう嫌だ」
「リカちゃん?」
「もう嫌だ。離れてるのが耐えられない…一緒にいたい。俺の近くにいてほしい」
止めどなく出てしまう弱音と本音。誰にも見せられない自分が姿を現す。もう自分じゃ歯止めが効かない。
「好きなんだ。どうしていいかわからないぐらい好き」
顔を押し当てた慧の服が濡れる。それが俺の零した涙なのはわかってて、でも止められない。
こんな情けない姿は今しか出せない。夢の中の慧にしか見せることはできない。
「好きだと思えば思うほど辛くて、でも…それでも愛してる」
夢の世界の慧は何も答えないけれど、とても温かい。それが俺を安心させてくれる。
1人だと寝付くのに時間がかかって、ようやく眠ったとしても苦しくて起きてしまっていた毎日。それなのにお前の気配を感じるだけで心地よい倦怠感が襲ってくる。
夢を見ているのに眠たくなってくるなんて変な話だけれど、久しぶりの穏やかな時間にどんどん意識が遠のいてしまう。
「すげぇな………夢でも慧がいれば幸せ」
体調不良と寝不足と酒と、そしてお前がいる安心感。力が抜けた俺の下から慧が這い出たような感じがする。それが嫌で伸ばした手が何かを掴んだ。この感触、この細さは腕だろう。
「置いて…行かないで」
俺は必死でそれに縋る。涙声の情けない俺に夢のお前はとても優しい。
「俺はどこにも行かない。リカちゃんといるから」
答えてくれた慧に笑おうとして、でも目が開かない。重たすぎる瞼が上がらない。
まだこの夢を見ていたい。ずっと醒めないで、このままここで過ごしていたい。
「好き」
真っ暗に落ちていく中で最後にそう伝える。
「……俺も」
そう言ってお前が俺の瞼にキスをしてくれた気がした。
翌朝、二日酔いの頭痛と共に目覚めた俺は部屋に1人だった。昨日のあれはやっぱり夢なんだと自嘲する。
それでもどこかスッキリして、それでいて穏やかな気持ちになれたのはお前のおかげ。
消えたネクタイが気になるけれど…いい夢が見れたから良しとしよう。
まだ俺は大丈夫。今日もまた笑える。
鏡に映った自分に言い聞かせ、また完璧な俺を作り上げていく。
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