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出会ったその時からアイツは自信に溢れてて、いつもどんな時も俺の前にいた。
薄く笑った唇で、優しく細まった瞳で…そして甘い声で言うんだ。
『俺に出来ないことなんてないんだよ、バーカ』
だから俺はいつもアイツに頼ってばかりで、きっとアイツなら何でも解決してくれるって思ってた。どれだけ難しいことも、どれだけ無茶を言ってもリカちゃんは絶対に叶えてくれる。
でも、アイツだって…リカちゃんだって俺と同じ弱い人間で悩んで苦しんで我慢して。それでもリカちゃんは言うんだ。
『お前は1人じゃない。俺がついてる』
そうやっていつも嘘をつく。
俺のために嘘をついて笑う。
*
「慧っ、慧!!」
後ろから背中を突かれ、俺は今が授業中だったことを思い出した。黒板の前には教科書に視線を落としているリカちゃんの姿がある。
「次は慧が当たるんだからな!」
小さな声でそう教えてくれる拓海に礼を言い、俺はリカちゃんを見つめた。
今日のリカちゃんはいつもと変わらないリカちゃんだ。あの時の弱ってた姿なんて想像つかないぐらい完璧だった。
そう、リカちゃんは『完璧』なんだ。
「なぁ拓海」
俺は椅子を引いて後ろの拓海に話しかける。
「リカちゃんってさ……泣いたりすると思う?」
「泣くってリカちゃん先生が?ないない。リカちゃん先生を泣かせれんのは誰にだって無理だと思う」
「そう……だよな」
拓海と同じで俺もそう思う。
アイツが泣くなんて考えられない……でも、あの夜リカちゃんは俺を抱きしめながら震えてた。
震えながら「辛い」って言って、置いていくなって必死だった。
「じゃあ次の英文を兎丸、訳して」
俺の名前を呼んでこっちを見るその様子は、やっぱり俺の知ってるリカちゃん。
本当にあの時と同一人物かって疑うぐらい別人だ。
「兎丸、もしかして目開けたまま寝てないよな?」
「…起きてる」
「じゃあ次の文を」
言われた英文を訳した俺にリカちゃんは微笑む。それは作られたんじゃない笑顔だった。
「よくできました」
そう言って今度は黒板の方を向いて教科書を書き写し説明を始める。
『好きだと思うほど辛くて、でも…それでも愛してる』
俺はリカちゃんの気持ちに応えたい。リカちゃんが俺に何を求めてるのか、どうしてほしいのかを知りたい。
俺の全てになろうとしてくれているリカちゃん。
俺の為にいつも完璧でいようとするリカちゃん。
そんなリカちゃんが振り返る。
「次、鳥飼。ここの訳は?」
「あ……えーっと、それは…」
「それは?」
「あの…」
リカちゃんが持っていたチョークを置いて頷く。
「鳥飼。俺が言いたい事わかるか?わかるよな?お前ならわかってくれるよな?」
にっこり笑って言うリカちゃんに、後ろの拓海が立ち上がった。なんでまた予習してこないのか、いや…しようとして出来なくて諦めたんだと思うけど。
それなら授業が始まる前に俺に聞けばいいのに。
俺のノートにはちゃんと数日分の予習が書かれている。これは俺が1人で頑張った成果だ。
今日も怒られて立たされる拓海に教室中が笑う。そんな中、俺はリカちゃんを真っすぐ見続けた。
ふと目が合ったリカちゃんは一瞬そらしてまた俺を見る。目を細めて笑ってくれるけど、今度のそれは作り笑顔だった。
「マジわっかんねぇ…」
ころころ変わるリカちゃんに俺の頭はパンク寸前。考えてもわからなくて適当に教科書をめくる。
もちろんどこにも答えは書いてなくて、また深いため息がこぼれた。
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