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「お前さぁ、そろそろ帰った方がいいんじゃねぇの」
黙ったままのリカちゃんの代わりに歩が由良さんに話しかけた。
「こんなとこ誰かに見られて困るのはお前だろ」
「それはそっちも同じちゃう?教師が人蹴るなんて問題やろ」
いつ誰かに見られてもおかしくない状況。腹を押さえてる由良さんを見られたら俺たちが不利なのは明らかだ。
もし誰かに責められたらリカちゃんは絶対に俺たちを庇う。また自分が悪いって言っちゃう。
どうしようかと焦る俺とは対照的に歩はすっげぇ冷静だった。
「ここにいる俺ら以外誰も見てねぇじゃん。お前を蹴ったのは俺、でも慧を殴ったのはお前」
歩が由良さんを見て鼻で笑った。その後に隣に立ってるリカちゃんの足を蹴る。
「そうだよな?たまたま見かけて止めに来た獅子原理佳センセイ。っつーかお前いつまでボケっとしてんだよ」
「あ、あぁ…」
こっちは4人、由良さんは1人…そして殴られて怪我した俺がいる。俺が由良さんに殴られ、それを見た歩が仕返したなら由良さんにも非がある。
リカちゃんを庇おうという歩なりの気遣いに驚いた。
まさかあの偉そうでプライドの高い歩が自分から悪者になるなんて意外すぎる。そう思ったのは俺だけじゃなく、拓海も歩をガン見していた。
「友達殴られてキレてすみません、もうしません…俺はそれで済むけどお前はヤバいだろうな」
「……歩のくせに頭回るんやなぁ。成長したやん」
「バカな兄貴とバカな従兄弟のおかげでな」
肩を竦めた由良さんは車へと歩き出した。数歩進んで立ち止まり、肩越しにこちらを見た視線は俺からリカちゃんへ、そして俺へと戻る。
由良さんがにっこりと笑って手を上げた。リカちゃんを殴ろうとした手…俺を殴った手を。
「じゃあね慧君。どうせすぐ捨てられんのに無駄な努力頑張って」
手を振ってからはこちらを向くことはない。開けられたドアから中へと入り走り去ってしまった。
由良さんが去って数秒、沈黙を破ったのはまた歩だ。
「拓海、帰るぞ」
「えっ…俺だけ?慧は?」
「そこのバカ2人なんか知るか。俺は帰って勉強しなきゃなんねぇんだよ」
拓海の襟を掴んだ歩が引き寄せた。小柄な拓海はその勢いのまま歩の腕の中へすっぽりとはまる。
俺とリカちゃんを見る歩は機嫌の悪さを隠そうともせず言い捨てた。
「お前らマジ鬱陶しい。何がお互いの為だよ。そんなの思ってること言って幻滅されんのが怖いだけじゃねぇか」
「今日の歩は熱血だな!俺そんな歩も好きだぞ」
「拓海……お前は黙ってろ」
一蹴された拓海がしょんぼりしながら黙った。拓海がすっげぇ拗ねた顔して上目遣いで歩を睨んでたけど、本人は目を向けさえしない。
「こっちは勉強のしすぎでイライラしてんだよ!余計なこと考えさせんじゃねぇ。その所為で点数悪かったらお前殴るからな」
お前ってのはリカちゃんのことだ。殴ると言われたリカが苦笑いする。
「教師として勉学に前向きなのを褒めるべきか…それとも兄として偉そうなのを叱るべきか悩むな」
「教師でも兄貴でもどうでもいい。明日もそうやってウジウジしてたらその邪魔な毛刈ってやる」
歩が拓海を引き連れ…引きずって帰ってしまう。その場に残されたのはすっげぇ気まずい2人。俺とリカちゃんだ。
由良さんと実は従兄弟でしかも…そういう関係だった……んだよなぁ。リカちゃんの昔の恋人。リカちゃんが俺と出会う前に付き合ってた人。
由良さんにも俺にしてるみたいに笑って、触って好きだって言ってたんだろうか。
あんなキザなこと言ってた、のかな?
リカちゃんが由良さんを抱きしめてるの想像して、すっげぇ腹立つ。言葉じゃ表現できないぐらいムカムカしてモヤモヤして、でもって痛い。
殴られて切れた唇よりも胸の奥が痛い。
チラッとリカちゃんを見る。リカちゃんも同じように俺を見ていて、目が合って同時にそらした。
だってリカちゃんと話すの久しぶり過ぎるんだ。ちゃんと話をするのは1か月ぶりぐらい。
1ヶ月…まだ1ヶ月しか経ってない。それなのに何年も離れてたみたいに感じる。
それはきっと今までずっと一緒だったからだろう。
「あー…っと」
鼻の頭を掻いたリカちゃんが横目で俺を見て言った。
「とりあえず消毒しようか……えっと、兎丸」
「……」
「じゃなくて、消毒させてください」
リカちゃんに頷き、俺たちはひとまず学校へと戻った。
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