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「やだ」
「やだじゃなくて」
「やだって言ってんだろ」
保健室から拝借してきた消毒液を右手に、コットンを左手に持ち俺を見るリカちゃんに首を振る。
リカちゃんが俺を連れてきたのは科目室だった。保健室には保健の先生がいて、この怪我の理由を聞かれたら困るからだ。
「それ絶対痛いやつじゃん」
「痛くない…こともないけど。そのままでばい菌入ったら困るだろ」
リカちゃんがコットン片手に近付いて来る。顔を背けた俺にため息をついた。
「お前なぁ…」
「痛いのわかってて待ってるバカがどこにいるんだよ」
「じゃあどうすんの?そのままにすんの?」
少しだけ腫れてきた唇はジンジン痛くて熱い。これをあの男にされたんだと思ったらすっげぇ嫌だけど、でも俺が殴られなかったらリカちゃんが殴られてたし。
なんだか複雑だった。
「兎丸、ちょっとだけ我慢して」
「やだやだ」
「頼むから。お前に傷とか残したくないんだよ」
そう言ったリカちゃんの顔が悲しそうに歪む。
「なんであそこで出てきちゃうかなぁ…俺なんて庇わなくても1発ぐら……―痛ぇっ!」
俺の口元の傷に触れようとした指に噛みついてやった。いきなり襲ってきた痛みに驚くリカちゃんの頬を摘まむ。
「俺なんてって言うな!自分を悪く言うなって俺に言うのは誰だよ!!」
リカちゃんの気持ちはすげぇわかる。俺のことを傷つけるのは誰だって許さないって言ってきたリカちゃんが、自分を庇って殴られたのを許すわけない。
今のリカちゃんは殴った由良さん以上に庇われた自分を責めてるはずだ。
その証拠にさっきから偉そうなことも意地悪なことも言わない。
でもそれはリカちゃんらしくなくて、いつもに戻ってほしい。いつもみたいに自信満々に笑っててほしい。
だから俺は我慢して横を向いた。
「仕方ないから今回は痛いの我慢してやる」
こんな傷、消毒しなくても平気だけどリカちゃんの罪悪感がちょっとでも軽くなるなら我慢してやる。
おずおずと伸びてきた手が傷に触れる。そっと優しく撫でると思った指はまさかの動きを見せた。
切れた唇の端に容赦なく消毒液が滲みた。
「痛ってぇな!!!なんで押し付けんだよ!」
「あ、ごめん。なんか偉そうに言われて手が勝手に動いた」
「そんなわけあるか!」
「それがあるんだよ。なんでだろう…不思議」
根っからのドSなリカちゃんはマジで意識していなかったのか、真剣な表情をしていた。
本能的に危険を察知した俺は座っていた椅子から立ち上がり部屋の端へ逃げる。
リカちゃんと距離をとって傷を庇いながら睨みつけた。
「お前……マジありえねぇ」
「ごめんってば。次は優しくしてあげるからこっち来いって」
胡散臭い…怪しい。また痛くされるんじゃないかと疑いの目で見る俺にリカちゃんは首を傾げ笑う。
「もうしないから」
その笑顔がますます嘘くさい。
「絶対嘘だ。お前はする」
「俺は嘘はつかないから。だから信じて」
信じるって今だけ…なんだろうか。それとも今までのことも、由良さんとのことも?
深読みする俺に気付いてるのかいないのか、本人にそんなつもりは見られない。
「ほら、早くこっち来いよ」
来いと言う顔が「お願いだから来てくれ」って言ってる気がして切なくなった。
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