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今度は優しいタッチで触れてくるリカちゃん。相変わらず長い睫毛が揺れ、その隙間から黒い瞳が覗く。
少し前までは怖いぐらい冷たかったはずが、今はそんな気配すら感じさせず心配そうに俺の傷を見つめていた。
「痛くない?」
「平気」
「ごめんな」
だからそれは何に対してなんだよ。どのことに対してなのか、それを言うつもりあるのか無いのか…俺はリカちゃんの出方を待った。
リカちゃんは、しつこいぐらいに消毒を続ける。
「あいつ…由良のことなんだけど」
やっと始まったその話。アイツは何なんだって聞きたいのを我慢し、俺は頷くだけで答えた。
「あんまり近づかないでほしい…つっても向こうから来たらどうしようもないけど。それでも出来るだけ1人になるな」
「俺から寄ってくわけねぇし」
「それはわかってる。わかってるけど念の為な」
コットンをゴミ箱に投げ捨てたリカちゃんは、そっと傷に触れた。
「痛くない?」
「それさっきも聞いた。何回同じこと言うつもり?」
「そうだけど…心配で」
俺は口元にあったリカちゃんの手をとった。こういうモヤモヤしてんのは大っ嫌いだ。
「いい加減にしろよ!言いたい事があんならハッキリ言え!」
こうもリカちゃんの様子が違ってたら気にするなってのが無理。最近じゃ自分でも我慢できるようになったとは思うけど、俺は俺。中途半端なことは嫌なんだ。
「アイツとリカちゃんが従兄弟だってのは聞いた。他に言うことは?!」
「他って言われても」
「もう全部言えよ。リカちゃんは俺に何を隠してんの?」
俺の手を握り返したリカちゃんが真っすぐこっちを見る。ジッと見つめられて怯みそうになるけど、俺は目をそらさなかった。
フッと顔を緩ませたリカちゃんにドキッとしたのは秘密だ。
「なんかお前逞しくなったな。この短期間ですっげぇ成長した」
「それ今関係ねぇだろ。話そらすなよバカ」
「今のお前なら俺がいなくても大丈夫かもな」
その一言があまりにも腹が立って仕方ない。俺がこの1ヶ月誰のことを考えて、どんだけ悩んでしたと思ってんだよ!何の為に会いたくもない女に会って、したくもない勉強してると思ってんの?!
溢れそうな言葉の代わりに態度で示す。
俺は間近にあったリカちゃんの額に思い切り頭突きをかましてやった。遠慮も手加減もなくぶつけたから自分も痛いけど、仕方ない。
全部リカちゃんを励ます為だ。
「痛っ…なんで今日はそんなに暴力的なんだよ」
「てめぇの目を醒ます為だろうが」
お互いに額を押さえ俯く。それでも握っていた手は離さない。離したくない。
「それなら言葉があるだろ。なんで実力行使に出んの?」
「それが俺だから。文句あんのか」
「理由になってねぇよ…やっぱりバカウサギだな」
「うっせぇバカライオン」
「バカって言う方がバカなんだって先生に教わらなかったか?ああ、お前ならすぐ忘れちゃったのかもな」
「お前いっつも俺のことバカバカ言ってんだろ変態教師!俺の先生は自分がバカだから仕方ねぇんだよ!!」
片手で額を押さえ、もう片方で手を握ってバカバカ言い合う。頭の片隅では一体何してんだって思いながらも、こういう時間が懐かしくてずっと取り戻したいって思ってたから嬉しい。
まだ何も解決してないのに、リカちゃんと触れ合えるのが本当に嬉しい。
「だいたいなぁ、いつの間に由良なんかと仲良くなっ…」
目の前のリカちゃんがぼやけて、マズいなって思った時には俺は抱きしめられていた。
とくんと心臓が跳ねる。使いたくても使えない甘い匂いがたくさんする。甘くて甘くて…大好きな匂いが。
「久しぶり」
「リッ…」
「いつも頑張ってるの見てるから。お前がちゃんと前向きに考えてくれてるの知ってる」
まだ俺はリカちゃんに何も話してない。進路のことも、母さんのことも何も言ってない。それなのにリカちゃんは知ってるって言う。
「なんで?なんで知ってんの?」
俺を抱きしめるリカちゃんが笑った声が聞こえた。そして、すっげぇ優しい声で教えてくれる。
「何があっても傍にいるって約束しただろ?」
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