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前までは問題を読んでも何を聞かれてるかすらわからなかった。けど今は違う。落ち着いて読めば何が大事なのかわかるし、冷静に考えれば答えは出る。
今の俺に解けない謎はない!
なんて現実は甘くいかない。
「わっかんねぇ。全然わかんねぇ」
教科書とノート、そしてリカちゃんが作ってくれた問題集を広げ俺は唸る。その目の前には同じように眉間に皺を寄せる歩がいる。
これまでのツケが回ってきたんだと思う。ずっと適当にやり過ごしてた俺が1人でなんとかしようとしたのが間違いだ。
暗記科目はまだいい。必死に覚えればなんとかなる。問題はこれだ、これ。
「なんで数字変えてくるんだよ!同じでいいだろ!」
「いいわけないだろ。うっせぇから喚くな」
歩に注意されて俺は黙る。この連休が明ければとうとうテストがやってくるのに俺はまだ基本問題で躓いていた。
どれだけ覚えても数字が変わればすぐわからなくなる。しかも問題も少しずつ書き方変えてきやがるからずるくないか?
「こうなったら全部の数字で解いて覚えるしかない」
「無謀すぎ。それやってる間にテスト来るぞバカ」
「じゃあどうすればいいんだよ?!」
「俺にキレんなよ…」
もう俺には後が無いんだ。せっかくリカちゃんと仲直りするキッカケを作ったのに、自分から言い出して賭けに負けたら、いつ次が来るのかがわからない。もしかしたら来ないかもしれない。
だから今頑張るしかない!
「俺もう今日から寝ずに勉強する」
「それテストの前に死ぬパターンな。そういうヤツに限って前日に爆睡して終わる」
「なんでお前そんなに冷静なの?」
歩だって俺と同じようにバカから抜け出そうとしてるのに、いやに冷静に返してくる。
それが益々俺をイライラさせる。
「焦っても仕方ないだろ。焦ったら点数が上がるならみんな走り回ってる。特に拓海なんかずっと走ってるな」
歩に突っかかった俺がバカだった。歩はこういうヤツだったのに、なんで同意してほしいなんて思ったのかがわかんねぇ。
黙ってまた教科書に視線を戻す。見れば見るほど嫌になってくる数字、数字…また数字。
窓を打ち付ける雨音だけが響く教室はなんだか寂しい。
「結構強くなってきたな」
天気予報通りの豪雨に歩が呟いた。
「俺、死ぬかも」
そう言った俺に歩はノートに顔を向けたまま応える。
「大丈夫、何があっても兄貴はお前だけは生かす」
「…そうかよ」
「あいつはお前がゾンビになっても「やっばぁ…慧君マジ可愛い」とか言うから。でもってゾンビでも関係なく抱く。あいつなら喜んで腰振るだろうな」
これは一体なんの話だろう…いきなり始まった歩のゾンビ語りを俺は聞こえないふりをした。
そこからは黙って2人とも必死に目と手を動かした。少しして歩が今日はバイトのヘルプだからと帰っていく。本当は俺も帰っていいんだけど、もう少し学校にいたくて休憩がてら教室を出た。
「雨だるいな…寒いし」
廊下を歩き、階段を下りて中庭へ。自販機でジュースを買って戻るときに何気なく駐車場を見る。
まだ停まってる黒の車。リカちゃんも学校にいるんだと思ったらまだ頑張れる気がした。
その車に誰かが近寄っていく。傘に隠れて顔は見えない。
見たことないスーツを着た知らない人。ソイツがゆっくり顔を上げた。その横顔がやっと見えて俺は走り出した。
「アイツ…!」
その手に何かを握って車に触れようとするのを咄嗟に止めた俺に、ソイツの視線が注がれた。
「なに?」
「なにってアンタこそ何しようとしてんの?」
その細い手首を掴んだ俺の手が震える。
「リカちゃんの車に何する気だよ」
「慧くん前までとえらい違いやなぁ。前は由良さん由良さんって懐いてくれてたのに」
「懐いてねぇ。勘違いすんな!」
手に握っていた物を由良さんが放り投げれば何か金属音が聞こえた。ヘラッと笑って俺の手を振りほどく。
「ちょっと仕事で嫌なことあって憂さ晴らし。別に車傷つけるぐらいええやん」
「いいわけねぇだろ。リカちゃんがどれだけ大事にしてると思ってんだよ」
綺麗で傷1つない車はリカちゃんが大事に乗ってるからだ。俺はこの数ヶ月それを見てきた。どれだけ大切にしてるかを見てきたんだ。
笑ってた顔が今度は頬を膨らせて拗ねたように変わる。でも、それが演技のように見えて気味が悪い。
由良さんがわざとらしく、ため息をつく。
「本人にしたいの我慢してるんやから褒めてほしいぐらいやけどな」
「そんなの絶対にさせない」
俺が絶対にさせるもんか。
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