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着物と違ってスーツを着ている由良さんはすげぇ華奢だ。細い、もっと太れって言われる俺と変わらないんじゃないかってぐらい。だからか前に殴られた恐怖なんてない。
「慧君のその自信はどっから来るんやろな」
「自信?」
「俺が親切に捨てられるでって教えてあげたのに理佳庇うなんてアホちゃう」
由良さんは続ける。
「まあ確かに顔と身体はええわな。あとは頭の回転も速い…けどそれって慧君に必要?」
車にもたれた由良さんが中を覗いて鼻で笑った。
その横顔を見て、どうして俺はこの人をいい人そうだと思ったのか…マジで騙された気しかしない。
「相変わらず人を唆すのは上手いんやな。あれって慧君の?」
そう言って指さす先には助手席に置かれたウサギ柄のブランケットだ。何も置かれていないリカちゃんの車の中で目立つそは俺が使ってるもの。
そこには俺しか乗せないっていうリカちゃんからのアピールが含まれている。
由良さんはそれをゴミを見るかのように見下ろした。
「気持ち悪い」
「アンタに関係ない。アンタが何をしてもリカちゃんはアンタのとこなんか行かないから」
由良さんの眉毛がピクンと跳ねた。
「リカなぁ。リカリカリカ…」
繰り返す由良さんの声がどんどん低く、小さくなって聞こえなくなる。次に上げた顔は真顔だった。
「お前みたいな子供にリカ呼びされて許すなんて考えられへん。ほんまに何がええんやろか」
俺の全身を遠慮なく見るその目はリカちゃんとは全然違う。従兄弟で血が繋がってるはずなのに由良さんの視線は気持ち悪い…っつーか、気分が悪い。
なんか点数を付けられてるような気がする。
「顔、まあ良し。でも後は今一つ…頭は悪くて性格は喧嘩早く口が悪い。責任逃れする癖があって現実逃避しがち」
淡々と俺の短所を上げていく由良さんは頷いた後に嬉しそうに笑った。
「うん、わかった」
「何が?」
「慧君は可哀想な子やからやな。それ以外は何も無い」
ハァと吐いた息で窓ガラスを曇らせた由良さんが描いたのはウサギと思わしき絵。それを手のひらで一気に消す。
「同情で優しくされて喜ぶなんて子供やなぁ」
もうダメだった。落ち着こう、何言われても我慢しようって決めてたはずなのに無理だ。
完全に敵とみなした由良さんを睨み、俺は声を上げた。
「優しくされてるわけねぇだろ!アイツがどれだけドSか知らないくせに!」
まずはそこを否定したい。
俺はリカちゃんにただ優しくされてるわけじゃない。
「いつもどれだけ俺が苛められてるか知らないくせに、勝手なこと言ってんじゃねぇ」
俺がもし優しくされてるだけだったら、こんなにリカちゃんを好きになってない。
ダメなことはダメって言って、厳しいところは怒る。でもその後には誰よりも嬉しそうに笑って褒めてくれるから俺はリカちゃんがいいんだ。
「アンタはリカちゃんの何も知らないくせに!!」
地面に跳ねる雨音が強くなる。俺はその音にかき消されないよう、強い声で言ってやった。
すると由良さんは傘の下で薄く笑う。
「知ってる。あいつがどうやって触って、どのタイミングで果てるのか。どこが弱くて何をしたら悦ぶのかも全部知ってる。慧君よりも俺の方が長いからな」
「長さは…関係ねぇだろ。大事なのは気持ちの問題だし」
「気持ちなんて簡単に変わるやろ。同情始まりのくせに後から出てきたやつが偉そうに言うなや」
そうかもしれない。始まりはリカちゃんが持ってた罪悪感で、俺も寂しかったからってのが理由かもしれない。
「それの何が悪いんだよ」
でも始まりなんてどうだっていい。
俺はリカちゃんとの『これから』しか見ない。
「終わったやつが今さら出てくんじゃねぇよ、オッサン」
何言われても我慢するなんて俺らしくない。
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