アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
676
-
*
あれから少し過ぎ、今日はテスト前日。
はっきり言ってピンチだ。というよりも寧ろ絶望的だ。
目の前に広げた問題集を見ても全然わかんねぇ。まずわかる気がしないし、きっとコイツもわからせる気がない。
「もう最後の手段でいくか……」
俺は覚悟を決めてシャーペンを握り、公式に全ての数字を当てはめていく。ノートいっぱいに1から始まったそれが2桁に差し掛かった時だった。
「何してんの?」
「何……って見たらわかるだろ。思いつく数字で答え覚えるんだよ」
「それただの時間の無駄遣いだと思うけどな」
「うっせぇな!てめぇは黙ってろ!!」
文句を言って気づいた。
ちょっと待て。俺は一人暮らしで家には誰もいないはずなんだ。今日だって歩を誘って断られ、部屋にこもって寂しく勉強してたはずなのに。
俺は今誰と喋ってた?
その正体不明のヤツの手が後ろから伸びてくる。長くて細い指が問題集を見やすいよう押さえた。
「黙っててもいいけど1つ教えてやろう。それさ、最初の1行目から間違ってるから出した答え全部違う」
「え?!」
「あと、その公式だけ必死に覚えてもよく取れて10点だな。その為だけに徹夜して覚えんの?」
見覚えのある部屋着。嗅ぎなれた匂い。
そしていつも傍にあった顔。
「え…なんでいんの?」
「お前が泣いてるって聞いたから。このままじゃ数字ノイローゼになるから助けてくれって歩に泣きついたんだろ?」
背後に立っていたリカちゃんが机の上に広げってあったノートを見る。ピクンと眉が動いた。
「お前……俺の作ったプリントやった?」
「3回はした」
「じゃあなんで同じ問題ばっかり間違ってんだよ」
ノートの横に置いてあった対策集を捲ったリカちゃんがページを開いたまま固まる。
「おい、これはなんだ?」
「なんだって言われても何が?」
「この大きく書かれた『捨てる!』はなんだって聞いてんだよ」
そこにあるのは何度も挑戦して解けなかった問題。
俺はそれを捨てることにした。できない問題に必死になるよりも確実に点数をとろうと思ったからだ。
「それは捨て問題だ」
俺なりの作戦をはっきりと言ってやる。するとリカちゃんが顔を押さえた。
「いや、自信満々に言ってるけどこれ基本問題だから。これ解けなきゃ応用も解けないし70点なんて無理に決まってる」
大きく溜め息を吐いたリカちゃんは呆れ顔。救いようのないバカだと言わんばかりの顔で俺を見てからノートを閉じた。
「わかった。特別に数学だけは教えてやる……が、もう1つお前に聞きたいことがある」
「なんだよ」
リカちゃんが笑いながら指差した先の扉は開いていて、そこから見える部屋の現状に俺は口元を震わせた。
ヤバい…ヤバいなんてもんじゃない。
「あれは、その…」
「その?」
「勉強に夢中になってて」
「なるほど。兎丸がそこまで勉強熱心になってくれるなんて先生は嬉しいよ」
見えるリビングには脱ぎ散らかした服に食べ終えて放置してあったカップ麺の山。そして空いたビールの缶。
ここ数日で俺が築き上げたゴミが溜まっていた。
「まるで初めて俺がここに来た時みたいだな」
思い出を振り返ってるように聞こえるセリフだけど、リカちゃんの目は笑ってない。
「お前は1年近く経っても学習しねぇのかよバカウサギ!今すぐ片付けろ!!でもってビールは捨てろクソガキ!」
部屋にリカちゃんの怒鳴り声が響き渡り、俺はすぐさまリビングへと向かう。そして、ソファで足を組んだ悪魔に監視されながら部屋を片した。
30分以上かけて掃除し、やっと綺麗になっていざ勉強…と思った俺に悪魔が言った。
「こんなラーメン臭い部屋で勉強なんかできない。俺の家でやるぞ」
「それなら掃除した意味ねぇだろ!!」
「掃除も出来ないバカが偉そうにすんな!今度あんな部屋にしやがったらお前をゴミの日に出してやるからな」
口元にだけ笑みを浮かべた悪魔に何も言い返せなかった俺は諦めてリカちゃんの家へ向かう。
あの夜以来の部屋、リカちゃんの匂いが溢れる空間にドキドキが止まらない。今すぐにでも胸が張り裂けそうで苦しい。
「お前っ…同じ問題3回も間違ってんじゃねぇよ!!こんなに丁寧に説明してやって理解できないなんて…幼稚園からやり直した方が早いんじゃないか」
懐かしい罵倒に違う意味で泣きそうだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
676 / 1234