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「ここに代入して。そう、そのまま計算して」
「わかった!!答えは5だ!」
「全然違う」
何度も間違えて、その度にダメ出しされ計算し直して何度も悩んで出した答え。また間違って心から落ち込む。
俺なりに必死に出した回答に大きく付けられた斜線がこっちを見て鼻で笑いやがったようにも思えた。
「ちょっと休憩するか」
リビングのローテーブルに手をつき、立ち上がったリカちゃんがソファに座り直して俺に声をかけた。
「休憩なんていらない」
1秒でも無駄にしたくなかった俺はそっちへは向かわず教科書と睨めっこ。
このままじゃ本当に70点なんて無理だ。焦る気持ちが空回りしてしまう。
「そんな状態でしても覚えらんねぇって」
「やるったらやる」
「兎丸」
呼ばれたのが名前じゃないことに一瞬俺の手は止まるが、気を取り直して続きを解こうとした。
急に目の前から数字の羅列が消える。
「何するんだよ!」
「俺が休憩って言ったら休憩。30分休んでまた再開すればいいだろ」
「そんな時間は俺には無い!!」
怒鳴る俺の頭に背後に座っていたリカちゃんの手が乗った。そのまま瞼まで落ちてきて視界が遮られる。
「落ち着け。ちゃんと最後まで付き合ってやるから」
「でも、」
「大丈夫だって。お前には俺がついてる」
見えない世界で聞くリカちゃんの声は優しい。俺を安心させてくれる。勉強に夢中ですっかり忘れていたドキドキが蘇ってくる気がした。
「大丈夫。お前は十分頑張ってるから」
「こんなんじゃ足りない…もっと頑張らないと」
もっと頑張って、もっともっと頑張って結果を出さないとダメなんだ。俺にはもう時間が無い。
「1人じゃ無理なことも2人なら出来る。それなのにお前がへばったら意味が無いだろ」
「そう、だけど」
「俺がお前を全力でサポートしてやる。それでも不安?」
何とかしないとって気持ちがリカちゃんの言葉で落ち着いていく。瞼に乗せられた手に自分のそれを重ね、俺は首を振った。
「聞き分けいいな。そんな兎丸にはご褒美あげる」
「ご褒美?」
「用意してくるからテレビでも観ていい子で待ってろ」
キッチンに消えてくリカちゃんの姿。前よりも痩せた後ろ姿を追いかけようとしてやめた俺はソファに座り込んだ。
いつも抱えていたクッションを手繰り寄せ顔を埋める。
どこかで何かが震える音がした。その辺に放っていた俺のスマホの液晶は暗いまま…ということは残るは1つだ。
「リカちゃん、携帯鳴ってる」
「え?なんて?」
「だから携帯鳴ってんだってば!!」
何かを焼いてるリカちゃんには聞こえないらしく、俺は立ち上がって音の鳴る方へ向かった。そこはリカちゃんの寝室で、もう何度も入っことがある俺は躊躇わず扉を開ける。
ベッドの上で震えていたのはやっぱりリカちゃんのスマホ。
でも、そんなものなんて目に入らないぐらいに俺は違う物に釘付けになった。
部屋にいたそいつと目が合って、振動音をBGMにお互い見つめあう。俺もそいつも黙ったままだ。
視界の端に映る景色はリカちゃんの部屋のリカちゃんの寝室。いきなりワープしたなんてオチはなければ夢でもない。
瞬きしてからもう1度そいつを見れば、まだ俺を見つめていた。
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