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「また降ってきたな」
薄暗く曇っていた空からポツポツと雫が落ちる。乾いた地面を濡らした雨粒に隣の歩がため息をついた。
「慧。お前傘は?」
「無い」
拓海はお姉さんの付き添いで病院だからって先に帰ってしまい俺と歩は2人で街へと来ていた。
どこかで傘を買うかと周りを見ていると鳴るクラクション。それが自分たち宛だとは思わなかった俺たちは、もちろん無視する。
またクラクションが鳴った。
「俺たちかな?」
「っつーか間違いなくお前だろうな……面倒くせぇ」
心底嫌そうな歩は俺を隠すように立ち後ろを振り返った。そこには真っ赤で高そうな車に乗った由良さんの姿。
車に詳しくない俺でも知ってる海外メーカーのそれに着物は似合わない。
「慧くーん」
由良さんが名前を呼んで手を振るから周囲の視線がこちらに向く。制服を着た高校生を高級車の男が迎えに来るなんてどんな関係だよって話だ。
隣の歩が舌打ちし嫌悪感を露わに俺を見る。俺が悪いわけじゃないのに、こんなのとばっちりだろ…とそれに睨み返した。
頭を掻いた歩がため息混じりに言った。
「お前GPSでも付けられてんじゃねぇの」
「怖いこと言うなよ…」
「あいつなら有りうるからな。兄貴に相手されないからってお前のストーカーしてなんの意味があんだよ」
どれだけ由良さんが俺に近づいて来ても目的はリカちゃんだ。俺も歩もそれを知っている。
「テスト終わったら遊びに行く約束してたやろ?わざわざ俺が迎えに来てあげてんから乗って」
「してない。俺は断った」
俺たちに車を横付けした由良さんが窓を開けて笑う。そういや由良さんが自分で運転してるのを初めて見た気がして、やっぱり方向音痴ってのは嘘だったんだと確信した。
「1日って言ってたのを数時間で我慢したるって言ってんねんけど。それでも断るん?」
「俺はアンタとは1秒でも一緒にいたくない」
はっきり断った俺に歩が鼻で笑った。相手はもちろん由良さんで、その顔が不機嫌に歪む。
同じ従兄弟とはいえ、由良さんのリカちゃんと歩に対する扱いは全然違う。完全に歩を見下してる由良さんが無表情で俺の隣を見た。
「お前邪魔やねんけど」
一切笑わずに言った由良さんに、歩は兄貴譲りの性格の悪さを隠さず、オブラートに言葉を包もうともせずに言い返した。
「後から来たのはお前だろ。兄貴にフラれたからって慧に近づいてんの?」
「フラれたんちゃう。俺から切ったんや」
「じゃあもういいだろ。それとも実はずっと好きでしたとか笑わせんなよオッサン」
まさか歩までオッサンなんて言うと思わなくて、驚いて隣を見上げた。テスト勉強の憂さ晴らしをしてるつもりなのか、偉そうな金髪は飄々としている。
そんな歩を無視した由良さんは俺に向かって笑いかけてくる。
「ただ興味あるだけ。これのどこがいいんかなって不思議なだけや」
これってのは俺のことで、俺を指さした由良さんは笑顔のままだ。
黙って由良さんを見つめる俺の代わりに車へと近づいた歩がその手を払った。俺と由良さんの間に立って距離をとってくれる。
「それを気になってるって言うんじゃねぇかよ。慧に手出したら今度こそお前兄貴に殺されんぞ」
「理佳が俺を?そんなん有り得へんわ」
何がおかしいのか由良さんが声を上げて笑う。その目は俺で止まり意地悪く歪んだ。
「慧君と一緒におる限り、リカは俺に従うしかない」
「それどういう意味?」
聞いたのは俺だけで歩はその理由を知っているのか悔しそうに由良さんを睨んだ。
「慧くんにとって理佳はスーパーマンやからなぁ。理佳は必死に隠しとるみたいやけど」
「由良。それは慧と兄貴の事でお前には関係ねぇだろ」
止めようとした歩の声が聞こえないかのように由良さんは俺だけを見て、俺だけに向けて言う。
「理佳を追い詰めてんのも苦しめてんのも慧君。そんな子を庇って守ってして健気な理佳」
シートに座り直した由良さんがハンドルに手をかける。
俺がリカちゃんを追い詰めてる…って由良さんは嫌味のように言うけれど、俺にとってそれは嫌味にはならない。
「そんなの知ってる」
「慧?」
「リカちゃんが俺と一緒にいたら苦しいってこと、俺が1番知ってる」
だって由良さんに言われなくても、自分で気づいてたことだからだ。
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