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鳴り続ける自分のスマホを見て次に歩を見る。
「え、だって…俺まだ仲直りしてないんだけど」
「別にそこまで言ってねぇだろ。傘買う金勿体ないし今日やたら寒いし俺もう歩きたくないし」
「でも約束が、」
出ていいのか悩む俺より先に歩の指がスマホに触れた。
通話ボタンを押せば通話画面に切り替わるのは当たり前だ。
「ほら。もう繋がっちゃったし何か喋らなきゃあいつ余計焦るぞ」
「いや、だから…」
「ほらほら。このままじゃあのバカ街中探すかもな」
それは……いや、今のリカちゃんならあり得る。そう思った俺は握ったままだったスマホを耳に当てた。
「も、しもし」
『今どこ』
向こうから返ってくる声は明らかに機嫌が悪い。
俺は何もしてないのに鋭い声で聞かれて正直怯んだ。この元凶の男は店の影に隠れて無表情でタバコを咥えている。
答えない俺に声を一層低くしたリカちゃんが問いかける。
『どこだって聞いてんだろ』
「えっと…駅から西に少し離れたとこの、大きい本屋の近く。大通りから1本入ったとこ」
『そんな説明でわかるか。住所を言え、住所を』
俺の説明じゃ、もちろん方向音痴のリカちゃんには伝わらない。
住所って言われてもわからなくて困っていると歩が自分のスマホを渡してきた。いつの間に電源を入れたのか、起動された画面には現在地の地図が載っている。
そこに映ってる住所をリカちゃんに教えると電子音が聞こえた…ってことはナビに入力してるらしい。
マジで来ちゃうつもりなのか、どうしようとその場を回ってしまった。
電話口からまたリカちゃんの声がした。
『10分あれば着く』
「いや!俺大丈夫だし。傘ぐらい買えるから!」
『濡れてるんだろ?そんな状態で外にいたら風邪ひく』
濡れてるって言っても、さっきまで小降りだったし肩と髪が濡れてるぐらいなんだ。この状況を見られたら確実に騙したことがバレてしまう。それはマズい。
やっぱり断ろうと思って声をかければ聞こえてくるのは無音。既に電話は切られてしまっていたらしく、もうリカちゃんがここに来るのは時間の問題だった。
「お前っ!!どうしてくれんだよ?!」
「どうって言われてもなぁ…あ、礼なら現金がいい」
「誰が!お前もリカちゃんに一緒に謝れよな!!」
呑気にタバコなんか吸ってる場合じゃない。ここにはもうすぐアイツが来る。人をからかうのが好きで、からかわれるのが嫌いな性悪が来るんだ。
睨む俺に歩は吸い終えたタバコを携帯灰皿に捨てた。のんびり自分のスマホを確認しながら言う。
「大丈夫だって。お前がこんな嘘つかないって兄貴ならわかってるし」
「だからって」
「それに兄貴も理由出来て良かったって思うはずだから」
「俺とリカちゃんには約束があるんだってば…こんなのダメだろ」
まだダメなのに最近じゃ理由をつけてリカちゃんと過ごしてしまってる。触ったりとかはないし、一定の距離はあけてるけど……本当にそれでいいのか?って思う自分もいるのが本音だ。
「それなら本人に聞いてみれば?」
歩が指さす先には反対車線に車を停めたリカちゃんの姿があった。
「あいつナビ使っても音痴なんだな。なんでこっちの車線で来なかったんだよ」
バカにする歩の言葉なんてもう聞こえないぐらい俺はその姿を捉えるのに必死だ。
こっちまで来たリカちゃんが、ほとんど濡れてない俺と歩を見てため息をついた。その視線が向いたのは歩だ。
「こんな事だろうと思った。どうせお前が勝手にやったことだろ」
「傘買うの勿体ないし歩いて帰るの寒いし」
さっき俺に言ったことと同じ内容をリカちゃんに堂々と言う歩。リカちゃんに促されて入った車の中は暖房が効いてて、ちゃんとタオルも用意されていた。
けど……初めて座った後部座席はあんまり座り心地は良くなかった。
やっぱりまだ元には戻れていないんだと実感する。
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