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先に歩を送り、車には俺とリカちゃん2人だけの時間が流れる。正直に言ってすっげぇ気まずい。
手当てをする為とか勉強を教える為とかと違い、理由がない2人きりは何を話していいのかわからない。しかも今は助手席じゃなく後部座席だし慣れてない距離感が余計に二の足を踏ませる。
音楽もかかっていない車内はずっと無音で意識しないでいようと思っても無理だ。仕事モードの薄めの甘い匂いが鼻を掠め、クンクンと鼻を鳴らした時だった。
「っくしゅ」
もうこのままマンションに着くまで黙っていようと思ったのに出てしまったくしゃみ。それに反応したリカちゃんが助手席に手を伸ばす。
「身体冷えてるだろうから使えよ」
「エアコン効いてるから平気」
「駄目。内側から冷えてるなら外からも温めた方がいい」
渡されたのはリカちゃんがスーツの上から着ている仕事用のコート。肩に羽織ったそれに包まれると甘い匂いが強くなる。その温もりと同時に少しだけタバコの匂いもして、なんだか落ち着く。
バックミラー越しに俺を見たリカちゃんの目元が僅かに緩んだ。俺はそれをムッとして鏡を通して見返す。
「なんだよ。ジロジロ見てんじゃねぇ」
「いや……やっぱり俺のコートだと大きいなと思って」
「身長が違うんだから当たり前だろ」
俺とリカちゃんの身長差は10センチ以上あって、手の長さも肩幅も全然違う。だから大きくて当たり前なのに笑われるのは腹が立つ。
コートを口元まで引き上げて目だけで迎え撃った。リカちゃんの口角がまた上がる。
「偏食ばっかりしてるから大きくなれないんだよ。ちゃんと野菜も食えって言ってやってるだろ」
「うっせぇな。そのうちお前なんか追い越してやるから黙ってろ」
「それは楽しみだ」
そんな日は来ないって言われてる気分になった。実際に俺は身長はもうあんまり伸びてないし、自分でも無理だとは思うけど……それでも悔しいから何も言い返さないでいた。
そんな俺にリカちゃんはやっぱり鏡越しに話しかけてくる。
「どこ行きたいか決めてんの?」
それはまだ提出してない進路の話か…それともあの話だろうか。どちらか考える俺に視線を進行方向に向けたまま、リカちゃんはのんびりとした声で言う。
「クリスマスだよ。俺の1日が欲しいんだろ?」
「……まだ結果出てねぇし」
「弱気だな。前までの威勢はどうした」
テストが終わった瞬間までは自信があった。でも今は不安しかない。もしダメだったらどうしようとしか考えられない俺にリカちゃんはニヤリと目を細めて笑う。
「お前が無理だったら1人ぼっちのクリスマスなんだけどな…今から適当に相手探すかな」
「は?何言ってんの?」
「誰か相手してくれたらいいんだけど。さすがに急すぎるから桃と歩の邪魔でもしてやるか…」
その顔には『俺がその気になったら他に相手なんてすぐ見つけられる』って書いてあった。
そんな嫌味な言い方しなくてもいいのに、また意地悪なことを言われて後ろから運転席のシートを蹴る。
「絶対俺が勝つに決まってんだろ!てめぇは黙って待ってればいいんだよ!!」
蹴った足を押し付ける俺にリカちゃんは振り返ってにっこりと笑う……けれど口端は引き攣っていた。
「そうやって強気な方がお前らしい。けどさぁ、その足で誰の車蹴ってるかわかってる?」
俺の蹴ったところにははっきりと靴跡が付いていて、血の気が引いた。
由良さん相手なら落ち着けるのに、どうもリカちゃんが相手だとそうはいかない。
軽く払っても落ちない靴跡に苦笑いを浮かべる俺に、信号待ちで車を停めたリカちゃんが投げてよこしたのは汚れ落としのクリーナーだ。
「着くまでに落とさなかったら許さねぇからな。俺は優しいから少し遠回りして帰ってやる」
「って言ってどうせ曲がるところ間違ったんだろ」
「黙れバカウサギ。いいからさっさと落とせ。じゃないと帰ってから寝る寸前までお勉強タイムにしてやる」
その後は何を話そうかなんて考える余裕もないぐらい必死に汚れを落とし、なんとか綺麗にした時にはマンションに着いていた。
このままの流れで誘われるかと思った晩飯は期待外れに終わり、俺は自分の部屋へ戻る。
あと何回これを繰り返せばいいんだろう。早くあの部屋でアイツと過ごしたい。
その気持ちがどんどん強くなっていった。
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