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「なかなか挑戦的な進路希望だったな。まさかあそこを選ぶとは…」
「うっせぇ。希望なんだから別にいいだろ」
それがどれだけ無茶なことなのかは俺が1番わかってる。もっとレベルを落として自分に見合ったところを選べって普通なら言われるだろう。もし俺が担任だったら絶対に言ってる。
「無理だって言いたいなら言えよ」
「無理?なんで無理だって決めつけんの?」
「俺の成績じゃレベルが高すぎー…」
レベルが高すぎるって言おうとした唇がそのままの形で封じられた。俺に指を押し当てた張本人であるリカちゃんが、上がっていた口角を更に歪める。
「難しいってわかってても自分で選んだんだろ?それなら余計な事なんか考えずに今出来ることをしろ」
俺を一言で黙らせたリカちゃんは棚からもう1冊参考書を引き抜いた。その中身を確認しながら言う。
「まぁ、あれだな。勉強以外にお前が出来ることっていったら1つだ」
「勉強以外に…って面接?面接なんてあったっけ?」
そんなのがあるなんて歩から聞いてなかった俺はリカちゃんを見上げた。その先にいる男が俺が持っていた本と、今選んだ分を合わせて持ち得意の流し目を決める。
その口から出たのは俺が勉強よりも苦手なことだった。
「助けてリカちゃんって可愛くお願いできたら合格は確定したようなもんだ」
「………誰がするか。そんなのしてる暇あんなら勉強する」
真面目に考えた俺が間違ってた。
リカちゃんがニヤリと笑う時は大抵がろくなこと考えてないのに、一瞬でも面接があったらどうしよう…なんて心配したのがバカみたいだ。
これ以上からかわれたくなくて、俺はリカちゃんが持ってる本を奪おうと手を伸ばす。その指が届くより先に手を上にあげたリカちゃんは、ズレたメガネをかけ直して俺から距離をとる。
そして今度はニヤッじゃなく学校でよく見せる綺麗な顔で笑った。
「大丈夫。お前は自分と俺を信じて前だけ向いていればいい」
「リカちゃんを?」
「俺が今までお前のお願いを叶えてやらなかったことがあるか?この俺に出来ない事はないって言ってるだろ」
自信たっぷりに言い切り、またも周囲の視線を浴びながらレジへと向かう。しばらくして戻ってきた手には会計済の袋が握られていた。
てっきり渡されるかと思ったのに、リカちゃんは荷物すら持たせてくれない。
「自分で買うつもりだったのに」
「いいよこれぐらい。大人には甘えとけ」
「せめて自分で持つ」
伸ばした手を見たリカちゃんが一瞬固まって苦笑した。
「駄目だな…久しぶりだと思ったら思いっきり甘やかしたくなる。お前も男なんだからこういう扱いは良くないよな」
やけに俺に甘いリカちゃん。色々買ってくれて優しくて、嬉しくなることを言ってくれる。俺はそれにドキドキして振り回されて…まるで去年の誕生日の時みたいだ。本当にあの日とかぶる。
……いや、かぶるなんてレベルじゃなくそっくり。
ってことは、この後に俺が告白して…あの時通りの最悪なパターンが頭に浮かんだ。
俺の足が止まって少し前を歩いていたリカちゃんが振り返った。
「何してんの?もしかして腹減って動けない?」
リカちゃんが何か聞いてくるけどそれどころじゃない。似てるって気づいてしまったらその事しか考えられなくて、俯いてしまう。
そんな俺を見て腹が減ってるんだと勘違いしたリカちゃんは会話を続ける。
「そういえば夕飯は何食べたい?今日なんか予約しなきゃどこも一杯だろ」
「夕飯……夕飯…中華は嫌だ!!」
あの日は中華を食べて海行って、これはイケる!と思ったら玉砕したんだ。もう同じ失敗は繰り返さない。
いきなり中華は嫌だって叫んだ俺にリカちゃんは不思議そうだった。
「いや別にいいけど。なんでそんなに嫌がんの?」
「何でもいいだろ!とにかく中華と海は絶対に嫌だからな!今日は和食でその後は山だ。山がいい」
「山?登山でもすんの?」
「誰がするかバカ。とにかく出来るだけ海から遠いところに行く!!」
ブツブツ言いながら何かを考えていたリカちゃんがスマホを取り出してどこかに電話をかけた。少し話をしてその電話はすぐに終わった。
「海に遠いところってのがよくわかんねぇけど予約取れたから」
俺の恰好を上から下まで眺めて周りを見た。
「その服じゃ無理だろうから次はお前の着替えだな」
「着替え?」
まさか本気で山登りでもする気なんだろうか?本気の本気で俺が山に登りたいって思ってて、それを叶えようとしてくれてる、とか?
ありえない。普通ならどう考えてもありえないけど、リカちゃんならありえる。
「腹減りウサちゃんの為に早めの時間にしちゃったしな…うん、あそこでいいか」
半ば無理やり手を引かれ、有無を言わさず俺が連れて来られたのはどう考えても高校生が入りそうにない店。
値札の桁が可愛げの欠片もないスーツ店だった。
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