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車の後部座席にはさっきまで無かった大きな紙袋。バックミラー越しに映るその中には着てきた服が詰まっている。
まず先に着替えだと連れて行かれた店で、リカちゃんは俺を試着室に押し込み自分の選んだスーツに着替えさせた。
黒は似合わないからって紺色。背伸びし過ぎるなって理由で渡されたネクタイは暗い色じゃなく薄いピンクだった。
渋々着替えて外に出ると、リカちゃんもジャケットを買ったらしく同じように着替えていた。それが黒色じゃなく紺色だったことには触れない。すげぇ気になるけど気づかないふりをする。
もちろん支払いは全部リカちゃんだ。何を言っても無駄なことがわかってるから俺は黙って見ていただけだ。
その結果、車の中は荷物がたくさん。香水に本に着替え一式…今着てるこのスーツがいくらだったかなんて思い出したくもない。
それを全て買い揃えた隣の男はナビを頼りに車を走らせている。もう変装する必要はないからって伊達メガネを外し、いつものリカちゃんに戻っていた。
「なあ。お前どれだけ金使ったら気が済むんだ?」
「別に無駄遣いしてないだろ」
「無駄……ではないけど」
大学の入学式にも使えるようにって派手過ぎず地味すぎないコーディネートをしてくれたのは嬉しい。けれど何から何まで買ってもらって悪い気もする。
高いスーツに皺が寄らないよう、注意して座る俺にリカちゃんは視線を前に向けたまま笑った。
「気にするなって。こう見えてちゃんと貯金もしてるし金には困ってないから」
「んじゃクリスマスプレゼントってことで貰っとく」
「プレゼント…そっか、忘れてたな。何が欲しい?」
「今これをプレゼントって言ったとこだろ…」
まだ何か買おうとするリカちゃんになんだか違和感が募った。
リカちゃんは頼めば買ってくれるけど、こうやって何でもすぐに買うタイプじゃない。俺だってあれが欲しい、これが欲しいって言うタイプでもない。
いくらクリスマスだからって変だ。
リカちゃんが俺に甘すぎる…これは絶対に裏があるに決まってる。
それを探ろうと隣を盗み見ても、さすがリカちゃん。全然ボロを出さない。それどころか「見すぎ」ってからかわれてしまった。
リカちゃんが何を企んでるか考えたところで俺にわかるわけでもなく、車はどんどん街の中心へ向かう。
「さて、と。少し早いけど夕飯にしますか」
スムーズに車を走らせながら話すリカちゃんの横顔。少し痩せたけど前とあまり変わらない…なのに違和感は益々大きくなっていく。
「何食べんの?」
「中華以外つったから今日はベタにイタリアン。お前テーブルマナーは大丈夫?」
「一応は」
父さんにダメ出しされたことは俺のなかではノーカウントだ。一応と答えた俺にリカちゃんは目を細めて笑っただけで返事はなかった。
リカちゃんの運転する車で連れて来られ、リカちゃんにエスコートされてやって来たビル。
駐車場から直接昇っていくエレベーター。やけにボタンが少なく、やけに長いこと乗ってるな…なんて不思議に思いながらも黙ってついて来た俺は、その店が見えてとうとう黙っていられなくなった。
「待て!こんな店に来るなんて聞いてない!!!」
足元に続く赤いカーペット。壁の代わりにガラス張りの店内。何を描いてるのかわからない絵がたくさん。
そこには俺の知ってるドリンクバーとかはなくて、あるのはバカみたいに大きなピアノ。
本気の本気な、本気で使う店に連れてこられて固まる俺の腰に手が回る。隣に立ったリカちゃんが横目で俺を見下ろした。
「当日にしてはなかなかの店だろ?」
「なぁ………俺はファミレスみたいな可愛らしい店を予想してたんだけど」
「クリスマスにそれは無いな。大丈夫、可愛らしさならお前で充分に補われてる」
「あー…うん。言うと思った」
半ば連れ込まれるようにして奥へと進むと、寄ってきたウエイターが俺の着ているジャケットを預かるか聞いてくる。首を振ってでしか答えられない俺にリカちゃんは口元を隠した。
案内されたテーブルは窓際で、そこから見える夜景を背にリカちゃんが振り返る。
キラキラ光るイルミネーションよりも綺麗な笑顔で笑ったリカちゃんが自信満々に言う。
「海に1番遠いところって言ったら空だろ。この辺で1番空に近い店にしてみたんだけど…気に入った?」
海の反対は山じゃなく空。
リカちゃんはやっぱり普通とはかけ離れてる。
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