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「とにかく座って。予約取ったって言っても2時間だから」
そう言われてリカちゃんが引いてくれた椅子に座る。これまた高そうな椅子…もちろん座り心地は抜群で、1人心の中で感動していると、同じようにして目の前に腰を降ろしたリカちゃんが目配せでウエイターに合図をした。
何も言っていないのに少ししてから勝手に運ばれてくる料理。
これはどう考えてもおかしい。
「リカちゃんさ、この店予約してただろ。じゃなきゃ当日に入れるわけないし料理だって来るわけない」
野菜だらけの前菜を前にリカちゃんの手が止まる。握っていたフォークを置き、上げた顔には作った笑顔が貼りつけられていた。
「何が?何の事かさっぱりわからないんだけど」
「嘘つけ。いくら俺でもそれぐらいわかるっての」
見回した店内は満席で、ここが飛び込みで入れるような店じゃないことは明らかだ。
しらばっくれようとするリカちゃんを睨むと作り笑いが苦笑いに変わった。その表情のまま置いていたフォークを持ち直し、前菜を食べる。
「うん、美味い。ほら食べて食べて」
「ごまかしてんじゃねぇよ。さっさと吐け」
「このタイミングで吐けって………お前はもう少し言葉を選んだ方がいい」
小言を言うその顔を更に睨む。するとリカちゃんは目をそらして口元を手で隠した。
「店の予約しておくのは男のマナーだと思うし、当日になってどこも入れないなんて情けないだろ」
「俺が違う所がいいって言ったらどうするんだよ」
「それなら予約をキャンセルすれば済む話だ。念の為だよ、念の為」
リカちゃんはそうやって簡単に言うけれど、クリスマスにこんな店って普通は予約取れないと思う。それこそ何日も、下手したら何ヶ月も前からじゃないと無理だ。
いつここを予約したのか…俺に離れようって言う前なのか、言ってからなのかはわからないけれど、どっちにしてもキャンセルせずに待っててくれたことが嬉しい。
リカちゃんも俺とクリスマスを過ごしたかったのかな…なんて思ってしまう。
それと同時に、ここまでしてもらったことに緊張感が増す。
ガチガチに固まって上手く食べれない俺の手からフォークが落ちた。思わず拾いかけたのを制したリカちゃんが軽く手を上げる。
すかさず新しいのが運ばれて来て、俺の代わりに受け取ってくれた。
「…ごめん」
テーブルマナーは大丈夫だって言ったくせに失敗した。ナプキンを握りしめる俺の手をリカちゃんが覆ってくれる。
トン、トン。
落ち着かせるよう、ゆっくりとしたリズムを刻むリカちゃんの指が手の甲に当たり少しホッとした。
「そんな緊張するようなことでもないから。いい加減力抜けよ」
リカちゃんは力を抜けって言ってくれるけど、こんな状態で力なんて抜けるわけない。
周りはカップルばっかりで男同士の俺たちは目立っていて、こそっと振り返れば少し離れた席の女と目が合う。横目で見れば隣の女と目が合う。
そう。女…女、女。こっちを見てるのはカップルの女の方ばかりだ。リカちゃんを見て、俺を見てからリカちゃんに視線を戻す。そこで止まるんだ。
一緒に来てる男じゃなくリカちゃんを見るなんて相手に悪いと思わないんだろうか。
なんだか嫌な気分になってムッとしてしまう。そんな俺とは対照的にリカちゃんはずっとマイペースだ。
皿に向かっていた視線が俺を捉えて意地悪く細まった。
「さっきから周りばっかり見過ぎ」
「だって…ってか見られてんのお前だろ」
「慣れてる。こんなの気にしたら負けだって」
見られ慣れてるのも、それを口にするのもどうかと思う。
その言葉通り、周りからの視線など気にもせずリカちゃんは黙々と食事を続ける。その手つきはすげぇ綺麗で、こういう店に慣れてるんだなってのがわかった。
けれど、それが本当に慣れてるのか…それとも慣れてるフリをしているのかはわからない。
時間が進めば進むほどリカちゃんがわからなくて、先に進めない。
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