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「なあ」
行先ボタンを眺めてを見ていた俺に向かって背後に立っていたリカちゃんが声をかけてくる。
「なに?」
「もう少しだけ付き合ってくれない?海には連れて行かないから」
冗談交じりに言うくせに振り返って見えたその顔は真剣で、きっと大事な話をされるんだろうって鈍い俺にでもわかる。
少し躊躇って……俺は頷いた。
一旦車に戻ったリカちゃんがコートを持ってきてくれる。それを羽織ってから連れられて来たのはビルの近くにある小さな休憩所だった。
ベンチと灰皿が置かれただけのスペース。そこに俺を座らせたリカちゃんが少し離れて立ち、タバコを取り出した。咥えたそれに火を点け深く吸い込む。
「今日のエスコート、何点だった?」
「何点って言われても。こんなの今までしたことないんだから点数なんて付けられるかよ」
そう答えると俺に当たらないよう煙を吐くリカちゃんは横顔で笑う。
伏せられた目元からは何を考えてるかわからなくて、次は何をされるんだろうかと身構えてしまった。
吸いこんだ煙を吐いたそのタイミングで何か言われるんじゃないか…もしかしたらそれは俺が喜ぶことかもしれないし悲しむことかもしれない。
窺う俺にタバコを吸い終えたリカちゃんが時計を見た。
「寒いなら行く?」
「別に…まだ平気、だけど」
それからは間を持たせるような会話をぽつぽつと交わし、リカちゃんが2本目のタバコに火を点ける。
まさか、ただタバコを吸いたかっただけだったりして…ただ自分が勘繰り過ぎただけのような気がして、ホッと一息つく。
「……完璧のつもりだったんだけどな」
タバコを持つ手で隠された唇から出た言葉。小さくてもしっかり聞こえたそれに俺は顔を向ける。
「何が?」
「なんでもない。まだまだお子様なお前にはレストランは早かったんだなって意味だよ」
「うっせぇな。バカにしてんじゃねぇよ」
バカにされて睨むと、リカちゃんはタバコを挟んだ指をぼんやり見ていていた。その火種をじっと見て、睨んでる俺に気づかない。というよりも、そこに集中して他に何も見ないようにしてるように感じる。
「おい、もう吸わないなら早く戻ればいいだろ」
何も言わず、動きもしないリカちゃんに俺は話しかけた。いくらコートを着てたとしても、こんな寒空の下にずっといたら風邪をひいてしまう。
「戻るってどこに?どうやって戻んの?」
こっちを見ないでリカちゃんが聞いてくる。その言葉の意味がわかなくて首を傾げる俺に、リカちゃんは続ける。
「俺だって戻れるなら戻りたい。今度はちゃんと完璧にこなしてみせる」
「リカちゃん……お前もしかして駐車場までの道がわかんなくて時間稼ぎしてんのか?」
尋ねた俺にリカちゃんは否定も肯定もせずに俯いた。
それならそうと早く言えばいいのに、変な言い方されてなんか気持ち悪い。モヤモヤする。
そのモヤモヤを払うように勢いよく立ち上がった俺は、リカちゃんを連れて行こうと手を伸ばした。
その手は届く前に振り払われる。肌を弾く乾いた音が響いて沈黙が訪れた。
少しの間の沈黙。それを打ち破った一言。
「ふるなら早くふって」
小さく低い声は俺から出た言葉じゃない。
俯いているリカちゃんの表情は見えないけれど、タバコを挟んだ指が微かに震えていた。
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