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「嘘って何?」
俺が言ったことの意味がわからないのか、リカちゃんが首を傾げた。
「何言ってんのかわからないな…1日歩き回って疲れてるんじゃないか?」
「いい加減人の話を聞けよ!最近のリカちゃんはなんか違う。リカちゃんなんだけどリカちゃんじゃなくて、でもリカちゃんで……って、あぁもう!!イライラする!」
自分で何を言ってるかわからなくて、でもなんとか伝えたくて状況に合った言葉を探す。けれど見つからなくて続きが言えない俺をリカちゃんは黙って待ってくれていた。
これはケンカじゃないんだって自分に言い聞かせ、細く息を吐く。
「とにかくリカちゃんは自分に厳しすぎる。そんなんじゃいつか壊れる」
「自分に甘い方が問題だと思うけど」
「それは……そうなんだけど。そうなんだけど、そうじゃないんだって」
言いたいことが上手く伝えられなくてもどかしい。
唸る俺の身体を離したリカちゃんがベンチに座り込み、片手で額を押さえ深いため息をついた。
「今の俺に不満があるならそんな遠回しに言うんじゃなくてもっとはっきり言えよ」
「そうじゃない。俺はリカちゃんに自分に優しくなってほしいだけで不満があるんじゃない」
リカちゃんが顔を上げないから表情が見えなくて不安になる。不器用な俺の言葉でちゃんと伝わるのか心配で、なんとか様子を窺おうとした。
リカちゃんが顔を上げないまま、低く小さな声で零す。
「自分に優しくするっていう意味がわかんねぇ。お前の為に何かしたいって思うのが重たいってことならそう言えばいいだろ」
「違う!それは嬉しい。嬉しいけど…それじゃリカちゃんが苦しい」
「それを決めるのはお前じゃない」
重たいんじゃないって言っても納得してくれず、また出させてしまうため息。こんな事ならタイミングなんて構わずいい雰囲気だった時に話せば良かったと悔やんだ。
不器用で感情的な俺と頑固で理性的なリカちゃんは全然通じ合わない。
わからないって言うのはいつも俺の方で、それを言う度にリカちゃんはちゃんと伝えてくれてた。でも、いざ逆の立場になると全然上手くいかない。
上手くいかなくてイライラする。時間が経てば経つほどイライラは増す。
その俺のイライラが伝わったのか、リカちゃんの纏う空気もピリピリしだして状況はどんどん悪くなっていく。
「何が言いたい?どうしたらお前は満足するんだよ」
そう言うリカちゃんはいつも自分が与える側で、それに慣れ過ぎてるんだと思った。我慢することに慣れ過ぎて自分の痛みに関しては麻痺してるんだ。だから限界を超えてるのに気づかなくて無理しちゃう。
「俺はリカちゃんにもっと自分を大事にしてほしい。頼りないし子供のくせにって思うかもしんねぇけど…でも俺のことばっかりじゃなく自分のことも考えてほしい」
「それは無理。俺の最優先はお前だから」
「だからそうじゃなくて!自分のこともって言ってんだろうが…っ、このわからず屋!!!」
とうとう怒鳴ってしまった俺にリカちゃんがチッと舌を打ち、その目が鋭く俺を射た。
「何が不満なんだよ。俺の1番はお前だってのは変わらない」
「それを変えろなんて言ってないだろ。俺が言いたいのは、そのうちの少しぐらい自分に向けろって言ってんだよバカ」
リカちゃんに不満なんて感じるわけない。だって、こんなにも俺はリカちゃんが好きなんだから。
俺様で意地悪でキザで、俺のことをバカウサギってからかうリカちゃんを。その反面で辛いって弱音を吐いて、自分は汚いって悩むリカちゃんを俺は好きなんだ。
好きだからこそわかってもらえなくて口調は荒くなる。握った拳を震わせ唇を噛みしめる俺と、鋭い視線のまま全く笑わないリカちゃんの間に冷たい風が通った。
そのまましばらく黙って、先に折れたのはリカちゃんだった。
両手に顔を埋め俯く。そのまま前髪をかき上げて空を見上げたリカちゃんが俺に向けたのは場違いな笑顔。明らかな作り笑顔で口を開く。
「大人気なく言い返して悪い。これからはお前の言った通りに出来るよう気をつけるよ」
それはすっげぇ落ち着いた声と雰囲気で、きっとこの顔を見た人ほとんどの人が信じちゃうんだろう。けど俺はごまかされない。この顔の胡散臭さを知ってるからだ。
「てめぇ思ってねぇだろ。そんなんじゃ俺は騙されねぇからな」
はっきり言ってやったら目の前の笑顔が固まった。それを冷めた目で見下ろすと、リカちゃんは作り笑いの口元を引き攣らせる。
「……っ、このクソガキ…人が折れてやったのに」
リカちゃんから今日1番の大きなため息が出た。
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