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「とにかく座れよ。ちゃんとお前の話聞くから」
促されて隣に座る。横目で見ると、こっちを見ていたリカちゃんと目が合って瞬時にそらした。
俺よりも言葉を知っていて、俺より言いくるめるのが上手くて俺より口が達つ。そんなリカちゃんと言い合ってるなんて今さらだけど緊張する。
俺が座ってる方とは反対側を向いたリカちゃんがタバコを吸い始めた。こんな言い合いの最中にも気を遣えるリカちゃんの後頭部を見つめる。
ふわふわの髪が風に揺れると懐かしいシャンプーの匂いがした。
その匂いとリカちゃんがタバコの煙を吐く音、遠くから聞こえる街の声を俺は黙って感じていた。
こうして座って身体を落ち着けると、イライラした気持ちも静まって冷静になれる。
「俺がリカちゃんに望むのは何でも叶えてくれていつでも助けてくれることじゃない。もちろん、それがあるか無いかで言うならあった方がいいけど…でも無くても困らない」
何でもしてくれる恋人ってきっと理想なんだと思う。いつも自分のことだけを思って最優先してくれる理想通りの人。けれど、そんな人はどこにもいないし誰もそんなものにはなれない。
「リカちゃんじゃないと嫌なのに…今日のリカちゃんは別人みたいだった。俺の喜ぶことしかしない、何でも欲しい物を買ってくれる人を俺は求めてるわけじゃない」
ただ2人で過ごせたらそれでいい。綺麗な服も高級レストランもいらなくて、2人で笑ったり怒ったりケンカしたりして過ごす時間がほしい。
伏せられているリカちゃんの目。落とされた瞼の奥にある綺麗な黒色は、怒ると怖い。それが徐々に見えてきて、やっと目と目が合う。
本当に頑固で自分が決めたことは曲げなくて人のことばっかり考えてて、変なところ抜けてるし思い込み激しいし…挙げ出したらキリがないのに気になって仕方ない。
わかり合いたいとか全部受け止めたいとか、そんなカッコイイことは言えないから俺の本音を言うことにした。
ワガママで自分勝手でも取り繕うよりきっとその方が伝わる。
目力では完全に負けてるけど気持ちだけは負けない。リカちゃんの服を掴んだ手に力を込める。
「これからは俺の為に自分を大事にしろ」
俺の為になるならリカちゃんは絶対に守る。
それが縛ってしまう言葉だってわかってて使う俺もまた汚い。人を好きになるって綺麗なことばかりじゃないって教えてくれたのはリカちゃんだ。
「俺の為に生きるって約束したじゃねぇかよ」
こう言えばリカちゃんは頷くしかない。俺には嘘をつかないって言うリカちゃんだから受け入れるしかないんだ。
自分に厳しすぎるリカちゃん。自分で決めたことは貫き通すリカちゃん。弱くて強くて、それでいて優しすぎる。
リカちゃんは興味ないことにはびっくりするぐらい冷めてるくせに、本当は一途すぎる人。自分の持ってる愛情の全てを1人に向ける人。
それに気付かず当たり前に受けてたのが俺で、周りのみんなは気付づいてた。だから俺は甘やかされてるって、リカちゃんは異常だって言われてきた。
お互いがお互いしか見えてないのは一見すると幸せのようで実は違う。
相手の為に自分を大切にすることを俺たちは知っていかなきゃいけない。
俺はリカちゃんの為に自分に素直になって自分と向き合う。リカちゃんは俺の為に自分に優しくなって自分の弱さを受け入れる。
ワガママばっかり言ってた俺が言えることじゃないかもしれない。リカちゃんがこうなったのは全部俺のせいだってわかってる。だから俺にしか言えないことがある。
「俺がリカちゃんの為に生きてやるから。だから全部俺の為に叶えろよ」
俺の為に優しくなってほしい。苦しくなるほど自分を追い込まないでほしい。
そんな事しなくても俺はリカちゃんから離れていかないって信じてほしいんだ。
俺はもう『好き』には戻れない。
俺を変えたのはリカちゃんだ。
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