アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
708
-
行先も教えてもらえないまま車は走り、高速に乗ってどんどん家から遠ざかる。
ほとんど揺れないのはリカちゃんの運転が上手いから。一定のスピードを維持しつつ安定して走る車内には等間隔に灯された街灯のオレンジ色が差し込む。
「眠たいなら寝てていいぞ。まだまだ時間はあるから」
「どこに連れてく気だ……って聞いても教えてくれないんだろ」
昂ってた身体はすっかり冷めて冷静になった俺は前を向くリカちゃんを盗み見た。
1人で何時間も運転するのが苦痛じゃないのか、余裕そうに微笑んだまま進行方向だけを見る。エアコンが利いて温かいのと懐かしい匂いにウトウトする俺の耳にゆったりとした音楽が入ってきた。
「…なに?」
「子守歌でも歌ってやろうかと。リクエストある?」
「それよりもどこに行くか教えてほしい」
いくら明日も休みだからっていきなり過ぎる遠出。何も用意していないのに思いついた途端に俺の意見など聞かずに発揮された行動力。
さっきまでの弱気なリカちゃんはもういなくて、俺様リカ様に戻っている理由が知りたい。
身体を向けてシートに横たわる俺をチラッと見て、リカちゃんが片手で頭を撫でる。それが気持ち良くて瞼が落ちそうになるのを必死に耐えた。
「お前の気が変わらないうちに閉じ込めちゃおうかなと思って」
「閉じ込める?」
まさかマジでどっかに監禁するつもりなのか?!リカちゃんならしかねな…いや、しないだろうけど。何言ってんだって睨めば俺の髪を指に巻きつけて遊んでいたリカちゃんが教えてくれた。
「もういけるところまでいっちゃおうか。今のままでもって思ってたけど明日も上手くいくとは限らない」
「またかよ…お前のそうやって勿体ぶるところ俺好きじゃない。ハッキリ教えろよ」
もう秘密にされて勘違いすんのは嫌。それに悩めば悩むほど2人がすれ違うのがわかってる。
好きじゃないと言った俺にリカちゃんは声を出して笑った。好きじゃないって言われて笑うなんて、リカちゃんってば本当はドMなのか?
まさかの展開に驚く。
「お前はマジで俺の予想以上だよ。まさかここまで変わるとはねぇ」
「なにがだよ」
やけに機嫌のいいリカちゃんは車線を右から左に移し、少しだけスピードを落とした。
「前までなら黙るだけだったろ。溜め込んで爆発するのがお前だったのに自分の意見を言えるようになった。ケンカ腰じゃなくちゃんと話せてる」
「それ絶対にバカにしてる。俺は前からこうだ」
「そうだな。本来のお前を出してやれなかったのは俺だ」
頭にあった手が離れていく。両手でハンドルを握るリカちゃんは全く疲れを見せない。
「…しんどくない?」
俺が運転できたら代わってやれるのに。リカちゃんに任せっきりにしないで2人で分け合えるのに。
けれど出来ないから悔しくて声をかけるだけに終わる。
そんな俺にリカちゃんは優しい。
「平気。それどころかすっげぇ気分いい」
本当かどうか探る俺の瞼にリカちゃんの手が乗った。ひんやりと冷たい手のひらが気持ちいい。
「着いたら起こしてやるから少し寝てろ。昨日だってあんまり寝てなかったみたいだし」
「なんで知ってんの?俺ちゃんと電気消してたのに」
部屋の明かりでバレないように電気を消してたのに俺が寝不足なのに気付いてたリカちゃん。一瞬だけ視線を落として口角を上げる。
「お前のことで俺が知らないことがあるとでも?見えてなくたって慧君のことなら何でもわかるよ」
自信たっぷりに言うその言葉。どっからその自信が湧いて来るのかわからないけど当たってるから何も言い返せない。
「今のうちに休んどけって。じゃないと体力もたない」
「お前は?リカちゃんはどうすんの?」
「俺は慧君見てたら癒されるから大丈夫。それでも心配なら隣で一脱ぎでもしてくれれば……って冗談だよ冗談」
そうやってまたごまかすリカちゃんに俺はため息をつく。
「……聞いた俺がバカだった」
手のひらをそのまま感じながら俺は瞼を閉じた。沈んでいきそうな意識の中、聞こえた歌は知ってる曲で、でもその歌のタイトルが思い出せない。
なんて曲か聞こうと思って聞けないまま、俺は静かに目を閉じた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
708 / 1234