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「これは…思い切った手段に出たもんだ」
誰も喋らない中でリカちゃんのお父さんが口を開く。その隣からお爺さんの手が伸びてきて紙に触れた。
「お前本気なのか?」
これが何を意味するのか、俺にはわからない。けれど周りはわかったらしく、小声で何かを言っているのが聞こえる。
「こんな冗談言うとでも?」
答えるリカちゃんは冷静で、お爺さんから目を離さない。お爺さんがその紙を見えるように広げる。その1番先頭には『相続』の文字が見えた。
「今書けるところは全て記入済みです。本当は全て揃えてから渡したかったんですが無理らしくて」
その紙にはリカちゃんの名前やらハンコやらが押されていて、ところどころ空欄があった。それを見たお爺さんが頷いた。
この部屋で意味をわかっていないのは俺だけだ。俺だけを残したまま、周りは騒ぎ、お父さんは驚いてリカちゃんは真顔。
そしてお爺さんも真顔だった。
また元の場所に戻された紙をリカちゃんが並べる。
「きちんと弁護士を通して作成したので不備はありません。その時が来たら提出してもらって構わない」
その紙の上に名刺が置かれた。そこには弁護士の文字と桃ちゃんの名前がある。本物の書類を本物の弁護士に頼んで作ったリカちゃん。
そんなリカちゃんがお爺さんとお父さんに向けてまた頭を下げた。
「お願いします」
一言だけ言って頭を上げないリカちゃん。誰か俺にこの状況を説明してほしい…リカちゃんは一体何をしようとして、でもって俺はどうしたらいいのか教えてほしい。
お爺さんを見て、リカちゃんを見て、その紙を見て。そして俺は不安な顔のままリカちゃんのお父さんを見る。目が合うとなぜか手を振られた。
「顔を上げなさい。連れてきた相手を困らせるような事はしない方がいい」
お爺さんに言われて顔を上げたリカちゃんが俺を見た。
「リカちゃん…」
名前しか呼ぶことが出来ない俺に苦笑したリカちゃんが頭を撫でてくれる。その手をそのままに、リカちゃんが口を開いた。
「何でも買ってあげたいし好きな所に連れて行ってやりたい。どんな願いでも叶えてやれる男にならなきゃって思ってた。そうじゃなきゃ俺がいる意味がない」
何でもしてくれて、完璧にこだわるリカちゃんが続ける。
「そのはずだったんだけど…それは間違いだって気付いた。そんなの誰も求めてないし誰にもなれない。勝手に決めつけて大事な事を見失いそうになってやっとわかった」
どうしてだかドキドキする。自分に厳しすぎるリカちゃんが見つけた答えに、この中で誰よりも俺が1番ドキドキしてる。
じぃっと見つめる俺に、視線を合わせたリカちゃんが微笑む。
「俺は自分を大切にしたい。この子の為に自分を大切にして、この子と2人で幸せになりたい」
頭にあった手が降りて来て俺のそれと合わさる。リカちゃんが前の2人を真っすぐに見た。
「この子を不安にさせるものは要らない。男なら大切なものは最後まで守り抜けって爺さんがよく言ってただろ?」
また頭を下げたリカちゃんに、俺も同じように下げる。2人の手はずっと繋がったままだ。
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