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お爺さんが去った部屋は一気に騒がしくなる。
一人一人の声は小さいのに、あちこちで囁かれる「同性なのに」の言葉。俺とリカちゃんの性別を、歳の差を、そして家を絶ってまで俺を選んだリカちゃんを非難する声が続く。
俺はまだいい。ここにいる誰も知らないし、顔だって覚えることもなければもう会うこともない。この人たちとの思い出なんてない。
でもリカちゃんは違う。
誰とどんな関係かなんて知らないけれど、この中にいるのは話をしたり、笑ったり…なにか繋がりがある人ばかりだ。
そんな人たちから向けられる蔑んだ視線をどう感じるんだろう。
悲しい、辛い、苦しい…その横顔からは何も汲み取れなかった。
「行くか」
リカちゃんが返された紙をポケットにしまう。
立ち上がって伸びをするのが堂々とし過ぎていて、絶縁されたばっかりだっていうのは一切感じられない。それどころか、すっげぇ清々しそうに輝いていた。
「立てる?」
貸してくれようとした手を俺は振り払った。ここで支えてもらったら、余計何か言われそうな気がしたからだ。
「立てるに決まって…っ、」
けれど、立ち上がろうとしたのに足が痺れて動かない。動かそうとすると痛いような痒いような、自分の足なのに言う事を聞かない。
「慧?」
訝しむリカちゃんに、俯いた俺は手だけで「待ってくれ」と合図した。
どうしよう…立てないなんて言えない。でも動けない。
黙り込む俺の身体にリカちゃんの手が触れる。何かに包まれたと思ったらそれはリカちゃんの腕で、俺の身体が宙に浮く。
見えていたはずの畳がリカちゃんの顔に変わった。
「だから立てるかって聞いたのに。普段から正座なんてしないお前が立てるわけないだろ」
「やめろっ!!離せ!」
「文句言うなら自分で歩けるようになってからな」
俺を抱えたリカちゃんに、みんながギョッとしている顔が見えた。
情けないのと恥ずかしいので顔から火が出そうでやめろと繰り返す。もちろんそれを聞いてくれるヤツなんかじゃない。
「玄関まで送るよ」
リカちゃんのお父さんも立ち上がり、3人で出口まで向かう。襖の前に立ったリカちゃんが部屋の中を振り返った。
けれど何も言わずにまた前へと向き直り、そのまま部屋を出る。
廊下を少し進み、後ろからの声が聞こえなくなったところで俺はやっと口を開いた。
「これでいいのかよ…もう帰って来れなくなるんだぞ」
少し上に見えるリカちゃんは顔色を全く変えず答える。
「これでいい、じゃなくてこれがいいんだよ。全部俺の計画通り」
「だからって…お爺さんいい人そうだったのに冷たかったな」
俺は、どこかで認めてもらえると思っていた。
自分の父さんや恒兄ちゃんがそうだったように、きっとわかってもらえると思っていた。
あんなに優しく笑ってくれた爺さんが、まさか最後に二度と来るななんて言うとは思わなかったんだ。
落ち込んでしまった俺は黙り込む。すると、少し前を歩いていたリカちゃんのお父さんが肩越しに振り返って言った。
「理佳、説明してあげたらどうかな。このままじゃ天使ちゃん勘違いして自分責めると思うけど」
「天使って呼ぶな気持ち悪い」
「それは無理だな。天使を天使と呼ばずして何と呼ぶ?」
「普通に名前で呼べばいいだけだろ。あんたが気に入った相手を天使って呼ぶのは知ってんだから」
そんなことどうでもいいから続きを教えてくれって思う俺を放って、似た者親子は淡々と会話を続けた。
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