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「なんでお前は人の話を聞けないんだ?」
リカちゃんが俺の手首を掴んだ。その動きはゆっくりとしているのに、どうしてか逃げられない。
それはリカちゃんが「逃げたら何するかわからない」って目で訴えてくるからだ。
俺の目の前に立つリカちゃんの足元に広がる雑誌。それはさっき俺が投げたもの。そこに載っている写真は俺がリカちゃんと一緒に見たいと思った、夜空にかかる光の帯だった。
簡単に見れるものじゃないって書いてあっても、リカちゃんなら何とかしてくれる気がしたその写真が、投げられた衝撃で少し破れている。
今年最後に一緒にいたとしても、年が明けてすぐも一緒だったとしても…その後が別なら何も嬉しくない。
「リカちゃんは何もわかってない」
「わかってないのはお前。どう考えたらそんな勘違いが出来るんだよ、バカウサギ」
「バカ?俺はバカなんかじゃない!」
リカちゃんを突き飛ばした俺は、傍に置いてあった鞄と上着を持ってリビングを出ようとした。
倒れたリカちゃんが起き上がって俺を呼ぶ。
「慧」
「うっせぇな!!そんなに好き勝手したいなら宇宙にでも引越せばいいんだ!」
「じゃなくてお前どの店で待ち合わせか知らないだろ。何1人で出て行こうとしてんだよ」
全部リカちゃんに任せてたから、この後どこで桃ちゃん達と待ち合わせか知らない。でも歩か拓海に聞けば済むことだ。
自分も出かける支度を始めたリカちゃんを待つことなく、俺は玄関へと向かう。靴を履いていると追いついたリカちゃんが玄関までやって来た。
「なんですぐキレんの?背も伸びてないのにカルシウム不足なのか?」
「黙れ。誰のせいだと思ってんだよ」
俺は、玄関に置いてあったリカちゃんの靴を掴むと部屋の中に向かって投げてやった。
思ったより飛んだそれは廊下を転がり、リカちゃんが拾いに行く。
その隙をついて扉に手をかける。
「お前とは絶交だ!!」
「だからなんで」
「それは自分で考えろバーカ!!!」
靴を手に呆れるリカちゃんに向かって中指を立て、悪態をついた俺は思いっきり扉を閉めてやった。
大きな音を響かせて閉じた扉。それでも気が済まなくて力任せに蹴りつける。きっと、この扉の向こうには澄ました顔で靴を履いてるリカちゃんがいるはずだ。
格好つけてレースアップのブーツなんて履いてきやがったアイツが悪い。俺は待つつもりなんて全くない。
リカちゃんを放って出た外は寒く、駅まで向かうのがダルくてタクシーを拾った。
その窓からはいくつものマンションが見え、もしかしたらこの中に次のリカちゃんの家があるのかもしれないと思った。
この中のどれかに住み、俺の知らないヤツと近所付き合いをして知らないヤツの隣で過ごし、知らないヤツと挨拶を交わすリカちゃん……
作りすぎたとか言って持ってこられたカレーを笑顔で受け取り、微笑むリカちゃん。
良かったらコーヒーでもどう?とか聞いて部屋の中に入れるリカちゃん。
今度のマグカップは何色だ?俺が青だから緑か黄色か…もしかしたら赤かもしれない。
イライラが止まらなくて、紛らわす為にゲームでもしようかとスマホを取り出せばそこに現れるのはリカちゃんからの着信。
何度目かのそれに俺は応える。
「しつけぇんだよ!!!」
一言だけ告げて電源ごと切り、俺はスマホを車のシートに放り投げた。こちらを見る運転手を睨み、ピリピリした空気が溢れる。
拓海に教えてもらい、なんとかたどり着いた店の看板は真っ赤で、それを見た瞬間にもう赤色の物は使わないと決めた。
今日から赤は敵だ。
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