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「慧君ちょっと離れて」
「やだやだ」
「やだじゃなくて」
「やーだー」
なんでこうなったのかと深いため息をつく。
今、俺の身体には完全に酔っぱらったウサギさんが抱きついている。股の間に横向きに座り、両手を身体に巻きつけて離れようとしない。
こんな状態じゃタバコすら吸えず、かといって引き剥がすことも出来ず黙ってされるがまま。そんな俺に目の前に座る愚弟がバカにしたように笑う。それを無視して俺は首元にあるウサギの頭を撫でてやった。
そうすれば少しは気分が落ち着くと思ったからだ。
「んー…ふふっ」
笑い声を零したウサギが首を伸ばし、擦り寄ってきた。
「リカちゃんもっと。もっと触って」
その言葉に俺の手が止まる。
そういう意味じゃないことはわかっていても、頭が勝手にそっちの意味で捉えようとする。
撫でるのをやめた俺に腕の中のウサギさんは不服そうに唇を尖らせ、襟元を掴んだ。
「なんでやめんだよ…もっとって言ってんだろ」
「帰ってからな」
「やだ。今!今やってほしいって言ってんのに!!」
やる…そんなこと言われたら今すぐ帰りたくなる気持ちを必死に抑える。
脳内で「もう帰っちまえ」と囁く自分を押し殺し、なんとか平然を保った。こんなことで動揺してるなんて知られたくない。
「鼻の下伸びてんぞ変態」
クソ生意気な弟が紫煙を燻らせながら俺たちを見る。最近少しは大人になったかと思いきや、格好のネタを見つけると飛びついてくる子供っぽさは健在だ。
「ほら、もっと触ってやれよ変態」
俺をからかおうとする歩を見つめる。
何も言わず視線だけを合わせれば次第に歩の眉が寄り、とうとう顔を逸らした。
「なんで顔背けるのかなぁ、あゆ君」
「てめぇが見るからだろうが」
「お兄ちゃんが弟見てなにが悪い?それとも何か見られて困ることでもあんの?」
「そんだけ見られたら気持ち悪いんだよ」
歩の身体に沁み込んだ「お兄ちゃんには絶対に逆らえない」という無自覚な癖が発揮される。
何もしていないのに警察を見るとドキッとしてしまうのと同じ、歩は俺が黙って見つめると必ず言い返せなくなる。
「ほら、俺に何か言いたい事あったんじゃないのか?あゆ」
強引に自分のペースに持っていった俺に、歩は口元を隠しながらこっちを見たり背けたりを繰り返した。
「どうした?あゆ」
「……っ、この性悪」
「俺何もしてないんだけどなぁ。変なあゆ君」
歩をからかうことが楽しすぎてすっかり忘れていた存在。俺の首元に頭を擦りつけていたそいつが身体を起こす。
2人の間に割って入ったそいつ、慧が頬を膨らませて俺を睨んだ。
「ずるい」
たった一言だけ口にした慧が両手を俺の首に回す。身体を伸ばして狙いを定めたのは唇だ。
合わせるだけの可愛らしいキスを数秒続け、離れた慧が俺に抱き付いたまま振り返ったのは、さっきまで俺が相手にしてた金髪。
目の前のキスシーンに無反応なそいつに向かって言った。
「これは俺の。あんまり見んな!!」
「俺のって……誰もとらねぇよ」
呆れた歩が返すが今のウサギにはそんなの聞こえない。
相手が男だろうが弟だろうが、俺が自分以外を見ているのが気に入らないらしく、視界に入れないよう頭を抱えて隠そうとする。
「慧君…苦しいんだけど」
力任せに抱きしめてくるから痛いし息苦しい。
その腕を退かそうとすると、さらに腕の力が強くなり身体全体で抱きついてくる。嬉しいんだけど、息が出来なくて困った。
けれど普段は出せないウサギの本音がボロボロ零れるのが嬉しくて、されるがままそれを享受した。
呆れきってる歩や桃の視線が痛く、料理を持ってきた店員に愛想笑いを返すのは正直面倒だけど…
「リカちゃん…いい匂い。俺この匂いすげぇ好き」
それでも酔った慧君は純粋に可愛い。可愛すぎて辛い。
不慮のアクシデントだったが、こんな美味しい状況を作ってくれた豊に心の中で感謝した。
ただただ、早く帰りたい。
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