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吐きそうなほど甘い、それはもう甘すぎる旅行が終わり、残りは鬼のように勉強させられて今日で冬休み最終日。明日からまた学校が始まる。
ちなみに俺が去年のラストを迎えたのはベッドで今年もベッドから始まった。その理由は言いたくない。
「んじゃ行ってきます。今日は会議で遅くなるから夕飯は先に済ませとけよ」
「ん。わかった」
先に学校に向かうリカちゃんが鞄を持って玄関へ向かう。もちろん俺はそれを見送ったりはしない。リビングのソファに座ってテレビを観ながら応えただけだ。
旅行が終わってすぐにリカちゃんは家に越してきた。ほとんど処分した家具の中でソファとベッドだけはリカちゃんの家にあったものに変わった。
残りは細かい物ばっかりだし、相手が桃ちゃんだからってことで引っ越しはすんなり終わったんだけど……なんか微妙に慣れない。
使ってなかった1室がリカちゃんの仕事部屋に変わり、何もなかった部屋の中には新しくパソコンデスクと本棚が置かれている。
俺の代わりにって溜まっていったウサギのぬいぐるみは、美馬さんの保育園に譲られたらしく、白くて小さな1つを残していなくなった。
それを美馬さんに渡した時のリカちゃんは少しだけ寂しそうだった。
「あ、そうだ慧君」
出て行きかけたリカちゃんが戻って来る。座っている俺の後ろに立って顔を覗き込んできたかと思ったらチュッと軽く唇と唇が合わさった。
「いってきますのちゅー」
「……バカか」
「でもって、これがいってらっしゃいのキス」
もう一度寄ってきたそれが重なる。今度は口の中に舌が入ってきて、ねっとりと絡んできた。
朝から施される爽やかさの欠片もないキスに俺はすぐさま酸欠寸前。今日も綺麗に着こなしたスーツの袖を掴んで抵抗した。
パッと身を離したリカちゃんが濡れた唇を親指で拭う。
「ご馳走さま、慧君」
「てっめぇ…朝から俺を殺す気か!!!」
「だからキスって言っただろ。いってきますは軽いチュ、いってらっしゃいは濃いキス。これ常識だから」
「それはお前の中でだろ!」
少し歪んでしまったネクタイを直したリカちゃんが微笑む。顔の横に2本の指を立てたからピースサインかと思いきや、にっこり笑ったまま言った。
「ふ・た・り・の常識。今度からいってきます、いってらっしゃい、ただいま、おかえりの挨拶はちゃんとしような」
「……え」
「もちろん、おはようとおやすみも。なんなら他にありがとうも追加する?」
そんなことしたら四六時中キスしっぱなしで唇が腫れる。っつーかその前に呼吸困難で死んでしまう。
黙って首を振る俺にリカちゃんは時計を見て「また後で」と踵を返した。俺はその腕を掴む。
「どうした?」
1日の始まりが、やられっぱなしでスタートなんてやだし。今日から新学期だし、俺はまだ時間あるし。
適当な理由を頭の中で並べて思いっきり引っ張った。勢いよくリカちゃんが降って来てソファに倒れ込む。
「ちょ、危ないだろ…っ、」
「リカちゃん」
爽やかな朝に似合う軽めのタッチで触れた唇は柔らかくて、でもさっきの余韻で少ししっとりしていた。
「いってらっしゃい…のちゅー、した」
顔を背けて言った俺にリカちゃんが笑ってお返しをくれる。それを数回繰り返し、最後に濃いキスをしてリカちゃんが俺の手首にブレスレットを付けてくれる。
「デレ慧君見れて朝から最高だな」
「へぇ……ってお前、時間ヤバくねぇの?」
時計の針はさっきよりも明らかに進んでいて、リカちゃんの顔が固まった。
「慧君に夢中になってる場合じゃなかった!」
玄関へと早足で去って行く背中を鼻で笑って、靴を履いているリカちゃんに手を振る。
「じゃーな、バカちゃん……じゃなかったリカちゃん先生」
「―っ…お前今夜覚えてろよ。啼かせ潰してやる」
バタンと締まった扉。きっと必死に学校へ向かって、でも恰好つけだから何事もなかったような顔をしているんだろう。その秘密を知ってるのは俺だけだ。
そう思うと同棲っていいよな、なんて考えちゃってニヤニヤしてしまう。
もちろん、それを学校でも思い出しちゃったから歩にからかわれて喧嘩したのはいつも通りのこと。やっと訪れたいつも通りの生活。2年生も残り3か月弱だ。
3年では進路が違う拓海とは別のクラスだし、受験で遊ぶ機会も減るかもしれない。
それを思うとちょっと寂しい気持ちになるけれど俺だって少しは成長したんだ。クラスが別れるぐらい別に平気……うん、平気。
「なんで!!なんで別のクラスなんだよ!!!!」
「なんでって言われても…学校が決めたことだし」
「そんなのお前なら何とかできるだろ?!」
「いや、無理だから」
数か月後、無事3年に進級した俺がクラスが離れたのは拓海だけじゃない。
高校生最後の1年にしてとうとう担任がリカちゃん先生でなくなってしまった。
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