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3年に上がった俺のクラスは進学クラス。他に専門学校を目指すクラスと就職するやつが多いクラスがある。進学クラスは俺のクラスの他に2つ。そのうちの1つをリカちゃんが受け持つことになった。
てっきりリカちゃんなら俺と離れないよう根回しすると思ったいのに、まさか別になるなんて…2年間一緒だったから油断してた自分が悔しい。
教卓を見ればリカちゃんとは全然違う学年主任の姿。またもや深いため息が漏れた。
「慧、次移動教室だって」
机に突っ伏していると頭を叩かれた。顔を上げた先にいるのは今年も同じクラスになった歩だ。目指す大学が一緒なんだから当然だと言えば当然なんだけど…でも俺が求めてたのは弟の方じゃない。
「はぁ…お前か」
「すっげぇ失礼なやつだな。どうせ家に帰ったら一緒なんだからクラスぐらい離れてもいいだろ」
「そうなんだけど。でも最近アイツ忙しいらしくてずっと仕事してんだよ。しかも俺を部屋に入れてくれない」
そろそろ本格的になってきた受験。推薦とかなんか色々と大変らしく、リカちゃんは仕事部屋にこもることが多い。そして、そうなったら絶対に俺を部屋に入れてくれない。
頭では仕方ないことなんだってわかってる。リカちゃんは先生なんだから生徒の俺には見せられないことがあるんだって理解はしてる。
だからこうやって歩に愚痴を言うことで我慢するしかない。
ここには拓海もいなくて、俺が話せるのは歩だけ。それは歩も同じで俺たちはクラスで完全に浮いていた。
「で、お前今年の兄貴の誕生日はどうすんの?また短期でうち来る?」
移動の間に歩と交わす話題は、今月にあるリカちゃんの誕生日のことだ。去年はプレゼントでケンカして歩の店でバイトして…ってあれからもう1年経つ。
リカちゃんと付き合い始めて1年と少し。2度目の誕生日がもうすぐやってくる。
「お前の誕生日は何貰ったんだっけ?」
「別に何も。クリスマスすっげぇ貰ったし旅行も行ったから、これ以上何か買ったら怒るって言った」
「それでもあのバカが何も用意しないわけないだろ。物じゃなくてもあのバカなら何かするに決まってる。だってあいつバカだから」
バカバカ言われてる男、リカちゃんは確かに誕生日は何が欲しいって聞いてきたけど。散々買ってもらって、色々してもらって欲しいものなんてなかったから断った。そうしたらアイツは奇行に出やがった。
適当に何か頼めばよかったって思わせたリカちゃんの俺へのプレゼント。それを俺は今の今まで歩には言っていない。なぜなら絶対にからかわれるからだ。
黙る俺に隣の歩が冷めた目を向ける。それを無視していたら背中を叩かれた。
「言えよ。ウサギのくせに俺に秘密作ってんじゃねぇ」
「なんでだよ。俺だって秘密の1つや2つぐらいある」
「へぇ。んじゃ俺が知ってるお前のネタ兄貴にバラすからな。中学んとき先輩にしつこく迫られて諦めてもらう代わりにデートした話とか、その帰りに抱きつかれて半泣きになった話とか、それをネタにもう1回しろって脅された話とか」
「お前マジで性格悪いな!!そんなんだから3年になっても友達出来ねぇんだよ」
「それはお前もだろ」
また今日も言い負かされて俺は唇を噛む。相変わらずド派手な金髪で偉そうな男はニヤニヤしながら隣を歩いていた。
「………誕生日は1歩も家から出てない。家でケーキ食べて終わり」
「は?お前の誕生日なのに?」
「だから何も無いって言っただろ」
本当に誕生日は何もなかった。前日にいつもより豪華な夕飯を食べ、リカちゃんが作ったらしいケーキを食べただけ。
普段と違うことってそれぐらいだ。寝る前の記憶が無いのはいつもと変わらない…残り少ない16歳の俺を覚えておきたいって理由で抱かれ、17歳の慧君を堪能したいって抱かれ、気付けば朝だった。
俺の誕生日は腰の鈍痛から始まった。
拍子抜けしたのか、面白くなさそうな歩が俺を見る。
「でもお前、誕生日の日電話にすら出なかったんだろ?拓海が拗ねてた」
「あぁ…それはスマホ没収されて」
「没収?なんで?」
「それは……17歳初めての俺を独り占めしたいってリカちゃんが。今日はお互いしか見ない、お互いの声しか聞かない日にしようってスマホもテレビもダメだって言われたから」
答えた俺に歩の顔が真顔に戻る。前に進む足が速くなって俺を置いて行こうとした。
「待てよ!!答えたんだからいいだろ?!あのことは絶対に言うなよ!」
「もう心底どうでもいい。お前らのバカ具合には慣れたけど、最近のはマジで無理」
からかうかと思った歩がどんどんスピードを上げる。それを必死に追いかけながら、あまりにも放置されてる今の状況に、もう1回あの誕生日みたいな日が来ないかな…なんて思ってしまった。
俺は深刻なリカちゃん不足だ。
「あ、兄貴」
歩が立ち止まって窓の外を見る。そこにはリカちゃんが俺の知らないヤツに向かって笑っている姿があった。
知らず知らずのうちに俺は2人を睨みつけてしまう。
「お前なぁ…あんなのただ世間話してるか何かだろ。それだけで拗ねるってどうなんだ」
「うっせぇ。俺だってマトモに話せてないのに、なんで他のヤツに笑いかけてんだよあのバカ」
「それがあいつの仕事だから。いくら構ってもらえないからって兄貴の仕事の邪魔はすんなよ」
また呆れられてしまう。けど、そんな歩の視線なんかどうでもいいぐらい俺は遠くに見えるリカちゃんに夢中だった。そんなリカちゃんは俺に気づかず歩き出す。
俺は見つけたのに。遠くにいてもリカちゃんを探し出したのに。
仕方ないこととはいえ、言いようのない不満が募る。
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