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『悪い。今日は残業で遅くなる』
リカちゃんから連絡がきたのは6時間目が始まる少し前だった。俺は読んだ後、返信をすることなくスマホの電源を切った。そうしないと自分がケンカを吹っかけてしまう気自信があるからだ。
今日は、じゃなくて今日も遅くなるの間違いだろって言いたい気持ちを抑えて授業の準備をする。
これから始まる今日最後の授業は英語…あの英語だ。
チャイムが鳴って教室の扉が開いた。ゆっくりと中に入ってきたソイツが教卓に手をつく。
「よし今から楽しいお勉強始めるぞー!お前達の努力は必ず実る!!!諦めちゃ駄目だ!」
クラスが離れただけじゃなく、俺は英語の授業もリカちゃんが担当じゃなくなった。
代わりに熱血で有名な学年主任、つまり俺の担任が英語を受け持ちやがる。
受け持ってくれるんじゃない、受け持ちやがるんだ。
そんな熱血迷惑教師は今日もデカい声で授業を進め、正解すると大げさなほど褒める。褒められるのは嬉しいんだけど俺が欲しいのはそんな褒め方じゃなく、包むような褒め方だ。
「兎丸!ここは昨日やったところだけどわかるか?覚えてるか?!」
そんな当て方じゃなく「じゃあ次の問題を兎丸。昨日やったからわかるよな?」って少し意地悪に聞いてほしい。
「よし正解だ!!ナイスだぞ兎丸!」
答えが合ってたなら「正解。ちゃんと覚えてて偉いな」って甘やかしてほしいし、ふわって笑ってほしい。
「はぁ……」
俺は頬杖をついてため息を零した。それに気付いた熱血迷惑教師が、また熱血っぷりを発揮してきやがる。
「どうした兎丸!もしかして腹が痛いのか?!それなら遠慮せず言えよ!」
「…別に平気」
「恥ずかしがる必要はないからな!!」
グッと親指を立てたソイツは無駄に輝く白い歯を見せた。
大きな声の大げさな授業はどんどん進む。でも全然頭に入って来なくて、このままじゃまた成績を落としてしまう。
帰ってリカちゃんに聞けたらいいのに…せっかく一緒に住んでるのにそれすら出来ない。今日もまた1人で飯を食べて1人で先に寝るのかと思うと、さっきよりも深いため息が漏れる。
「兎丸、やっぱり腹が痛いんだろう?気にせずトイレに、」
「だから違うって言ってんだろうが。いいから早く続けてくれよ…」
もう何も言われないよう、細心の注意を払いながら授業を受ける。けれど、やっぱり気分は乗らなくて俺は持っていたシャーペンをくるくる回した。
邪魔なライオンが手にぶつかって机に転がる。ウインクしてるそのバカライオンが腹立って筆箱の中、1番奥に突っ込んでやった。
なんで前より近くにいて、前より一緒の時間が増えたのに寂しくなっちゃうんだろう。考えれば考えるほど気分が落ちていく。とうとう机に突っ伏した俺の肩を誰かが叩き、顔を上げる。
「あー…うん、体調悪いみたいだから学校終わったら真っすぐ帰る。トイレは必要ないから大丈夫」
間近にあった顔に引きつつ、苦笑いで答えればソイツは力強く頷いた。悪い先生じゃないし教え方だって下手じゃない…はずなんだ。学年主任してるぐらいだから、いい人のはずなんだけど。
「比べちゃうもんは仕方ないよなぁ…」
基準がリカちゃんだとこういう時困る。だって俺の中で1番はアイツで、いくら変態で頭がおかしくてもアイツ以上はいない。
授業が終わって真っ先に電源をつけたスマホには何の通知も来ていなくて少し泣きそうになった。
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