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寂しい男。
まさしくその通りではあるけれど…あるけれども!
どうしてこの俺があんな熱血で鬱陶しく、俺の慧君の担任で俺の慧君の担当教諭を奪いやがったやつと同じ扱いなのか。
それが腑に落ちず、ため息が出る。
とりあえず今すべき仕事を終わらせようと、閉じられたパソコンを開いた。不幸中の幸いとはこのことで、ただスリープ機能になっていただけでデータは無事だ。
ほっと一安心して顔を上げると、離れた席に座り俺を見ていた熱血教師がいる。目が合ったそいつは、親指を立てて何かを飲むジェスチャーをした。
そういえばコーヒーを淹れてくれていたことを思い出し、頭を軽く下げて脇にあったカップを掴む。
唇に当たる熱はほどよい熱さで、喉が渇いていた俺は多めの一口を啜った。
途端に広がる甘い、甘すぎる味。
一体どれだけ砂糖を入れやがったんだと、男を見る。すると何を勘違いしたのか、そいつは満面の笑みで手を振って『お気になさらず』と伝えてくる…それが癪に障り、愛想笑いの口角が小刻みに震えた。
俺が好きなのはブラックコーヒーで、それとは比にならないぐらい好きなのが兎丸慧。
そんな慧君との仲を邪魔しただけでなく、やたら馴れ馴れしく絡んできて、この俺にこんな甘ったるい人の飲み物を飲ましやがった男…。
この苛立ちとウサギにぶつけられない怒りと憂さをあいつにぶつけてやると決め、仕事を猛スピードで終わらせる。
離れた先から「負けてられないなぁ!」と、意気揚々とした声が聞こえるが無視だ。俺はあいつを視界に入れないことにした。
そして全ての仕事を片付け、やってきた悪夢の飲み会。
憂さ晴らししてやる、苛めてやる、もう二度と絡んでこないよう思い知らせてやると誓って行った飲み会。
「獅子原せんせぇ……教師って嫌われて、邪険にされて悲しい生き物ですよねぇ」
目の前には顔を真っ赤に染め、涙目で見上げてくる上司。その右手にビールの入ったジョッキを手に持ち、同意を求めてくる。
「困った時は先生先生、普段は近寄るな…なーんて理不尽な話ですよ」
「まぁ…それより主任、飲みすぎじゃないですかね」
「飲まなきゃ!今日は飲んで飲んで明日は幸せになる!」
一体どういう意味だ?と問いかける隙もなく、そいつは酒を煽り、机に突っ伏す。
なぜか俺のシャツの袖を握り、離そうとしないままで眠りに落ちた。
賑やかな宴の端で潰れた主任と、それを隣にスマホを眺める俺。学校一の人気教師と言われていたはずが、この状況は何がどうした。
「………はぁ。慧に会いたい」
ボソッと零した呟きに、隣の学年主任が顔を上げる。
「景子?景子が帰ってきたのか?!」
「…景子?」
それが誰かわからず首を傾げると、主任の目に涙が浮かんだ。
「俺が悪かった景子ぉ…帰ってきてくれ……景子」
どうやら奥さんの名前らしい。泣きじゃくり、また夢の世界へと落ちていく主任を見て思った。
やはり世の中、惚れたもの負けだ。
嵐のような1日は、俺よりも酒に弱い熱血野郎の涙ながらの愚痴を聞いて終わった。
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