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もう限界だ。
たった数日と言われようと、理由も告げず、連絡にも出ず明らかに俺を避けている態度が許せない。
誕生日だとか、そんなものはどうでもいい。
新しい1日を迎え、昼休みに俺はウサギの教室へ向かった。どうせ電話しても出ないだろうし、呼び出したとしても無視しやがるかもしれない。それなら直接捕まえた方が早い。
もしも理由は何か、と聞かれたなら適当にその場で考えてやる。それぐらいの器量はある。教師という立場をフルに使ってやろうと思った。
足早に歩くのは声をかけられない為。ここで他の生徒に捕まれば、その間にあいつはどこかへ行ってしまうかもしれない。
無表情のまま早足で廊下を進む俺に誰も声をかけない。それどころか道をあけて廊下の隅に寄ってしまう。
やっと見えた教室の扉。まだ大半の生徒がその中にいることを確認して勢いよく開けた。
一斉に向けられる視線を気にも留めず目的の人物を探す。
「……んだよ、いねぇ」
4時間目が終わってすぐに来たはずなのに、そこにウサギの姿はなかった。代わりに目に付いたそいつの前に立つ。
相変わらずの金髪。根元までしっかりと染められたそれは最近手入れしたのだろう、綺麗な艶を持っていた。
仮にも受験生のくせして、まだ黒に戻すつもりのないそいつに俺は声をかける。
「おい」
一言目では起きない。遅くまで勉強しているのは聞いていて知っていたが、こうして授業中に眠ってしまっては意味がない。
これはお仕置きが必要だと判断し、金髪の間から覗く耳に唇を寄せる。
うちの弟…牛島歩君は耳が弱いことをお兄ちゃんは知っているんだ。
「起きろよ、あゆ」
「んん…」
かけた声と落とした吐息に少しだけ身じろいだが歩は、しぶとく粘る。
少し身動きしただけでまた寝息をつき始めてしまい、俺はもっと顔を近づけた。そして周りには絶対に聞こえないよう、最小限の声量で囁く。
「歩ちゃん、早く起きないと先にお風呂入っちゃうわよ」
全く似ていないモノマネ。似せたのは口調だけで声は地のままだった。それなのに歩の方がピクッと動いた。
こんな言葉をあいつが言うかは知らないけれど、歩が喜びそうなセリフを考えて口にする。
もしこれで引っかかるようなら相当なバカだな、と思いながら言葉を耳に直接送り込んだ。
「一緒に入って洗いっこしたかったのに…歩ちゃんのバカ。もう知らないんだから!」
「入る!起きたから俺も入……」
顔を上げるどころか急に立ち上がった歩を、俺は寸でのところで避けた。寝ぼけ眼の歩は、不思議そうに周りを確認し、顔を押さえてしまう。
こういう状況をすぐに察知できるところは俺と似ている。
きっと今のこいつの中は羞恥が占めていて、それはそのうち怒りに変わる。もちろん、その矛先は俺だ。
黙って立ち竦んでいた影が揺れた。かと思えば顔を覆っていた手で前髪をかき上げ、目線鋭くこちらを睨みつけてくる。
「てめぇ……」
およそ教師に向ける視線と、言葉には思えないそれを隠すことなく晒す。よく見ると歩は怒りで震えていた。
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