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ウサギと関係を持つようになって早1年と少し。
素直に言えない気持ちを無関心というベールに隠していたこいつが、特定の相手には本音を言えるようになった。まだまだ憎まれ口も多く、つい真逆のことを言ってしまうこともあるけれど、それでも進歩したと思う。
しかし今の発言はどうだろう。進歩し過ぎて可愛いウサギちゃんから肉食ウサギに変わったのだろうか。それとも俺色に染まりすぎて似てきた?
そう思わせるぐらいに意外なウサギの言動。
いきなり人を倒し、上に乗り上げて出た言葉は「苦しそうな顔がエロい」だなんてウサギらしくない。
頭の中を整理していて行動が遅れた俺に、ウサギの魔の手が伸びる。
その手が唐突に触れたのは俺のネクタイだった。結び目にかけた指を引き、解いたそれを手繰り寄せる。そしてなぜか自分の首にかけた。
「何してんの?」
「見たらわかんだろ。今日ネクタイ忘れたんだよ」
うちの学校は歩の頭髪を見てわかる通り、校則はそれほど厳しくない。
ちゃんと制服を着用していればベストやセーターは自由だし、中にはパーカーを着てくるやつもいる。式典の時以外は基本自由だ。
よってネクタイを付けてようがノータイであろうが問題はない。
問題なのはウサギの行動だ。
「慧君、それはマズい」
俺はネクタイを取り返そうと手を伸ばした。目的の物に触れる前に、その手が振り払われる。
振り払ったそいつは俺を睨みつけて威嚇してくる。
「別にこのネクタイ付けてても怒られねぇし。それに他の先生はジャージのヤツだっていんだから大丈夫だろ」
「それはそうだけど…そうじゃない問題があるよな?」
「ない。問題なんてない」
言い切ったウサギに俺は静かにため息をついた。こいつが頑固なのは既知のことで、1度言い出したら聞かないのだって何回も経験している。
だからと言って両手を広げて「どうぞ」とは言えない。
俺がウサギに言うべきことは決まっている。
「俺のネクタイをお前がしてることが問題なんだよ」
昼までは自分がしていたネクタイを、急にウサギがしていたら変だと思われても仕方ない。それこそ5時間目を抜け出しているのだから勘繰る輩が出てくるかもしれない。
ウサギが鳥飼のようなタイプだったなら貸してもらったで済む話も、こいつの性格上ありえないこと。それを懸念して言ったのに頑固ウサギは頑なに拒否し、一向に返してくれなかった。
それどころかウサギは華奢な身体をのけ反り、奪われないように注意しながら不器用な手つきでそれを巻く。キュッと締めて形を整え、やっと俺の上から退いてくれた。
教室の中ほどまで逃げてしまったそいつを、俺は上半身を起こして見る。学校指定の制服、いつもと変わらない髪。違うのはさっきまで俺の元にあったダークグレーのネクタイだけだ。
「それさ、聞かれたらなんて説明すんだよ」
ウサギの胸元で揺れるそれを指さすと、持ち上げたウサギがネクタイの先を口元に当てる。
隠れた唇から紡がれた言葉は、これまで以上に俺を振り回すものだ。
「リカちゃん先生に貰ったって答える」
「なんでだよ…どう考えてもありえないだろ。俺とお前は学校じゃ全く接点無いんだから」
「じゃあ一緒に住んでるって言う。接点ならそれで充分だ」
「……は?」
掴んでいた手をウサギが離すと、グレーの布が揺れる。その揺れが収まらないうちにまた繰り返した。
「聞かれたらリカちゃんと住んでるって答えるって言ってんだよ。お前普段は地獄耳のクセして、こういう時だけ聞こえなかったフリしてんじゃねぇよ」
揺れる布地の上にはボタンの開いた襟があって、細い首が続くのは小さな顔。そこにある唇も鼻も目も眉も全て見慣れたウサギのものだ。
目を閉じても当てることが出来るほど見て触ってきた馴染みあるものだ……けれど。
普段通りのウサギが普段通りの生意気な表情で3度目の問題発言を俺に言い放った。
「俺、リカちゃんと住んでること隠すのやめた」
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