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卒業式【牛島歩×大熊桃太郎】
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顔を上げ、彼女が拾ってくれた書類を受け取る。
先ほどの言葉を拾ったことに対する礼だと思った彼女は、「どういたしまして」と笑ってくれた。
そうこうしているうちに式は進み、卒業生が退場のために立ち上がる。
参道から少し離れた所に立つ彼女にあたしは話しかけた。
「ご子息、見送らなくていいんですか?」
「ご子息なんていいものじゃないの。今日だって来るなの一点張りだったんだから」
「年頃の男の子ならよくある事ですよ。僕もそうでした」
少し俯いて笑う彼女は少し寂しそうだ。
親離れする子供に対する喜びと、切なさの両方を浮かべた表情で前を向く。
「実はね」
周りの拍手の音に消されそうなほど小さな声で彼女が言った。
「実は少し前に歩と喧嘩してしまって。あの子、最後まで滑り止めの大学受けようとしなかったから」
その話をあたしは知っている。歩ちゃんが自分を追い込むためと、覚悟を持つためにそうしたんだと知っている…けれど知らないふりをして頷いた。
「私は無理だって止めたのよ。そうしたら、理佳まで連れて来て説得しようとしてね…変なところで仲いい兄弟って嫌ね」
ふっと笑った彼女は、歩ちゃんにもリカにも似ていて、けれど別人だった。それなのにどこか2人を感じさせる。
「息子なんてすぐ離れて行っちゃう。こんなことなら娘も作っておくべきだった…と思ったんだけど」
言葉を切った彼女があたしを見た。
綺麗な薄桃色の唇がニッと歪む。
「まさかうちのクソ生意気な次男坊がこんな美人捕まるなんて!!本当、驚きだわ!」
「……え?」
「いやぁね、本当は来る予定じゃなかったの。けど昨日、歩とあなたの電話を盗み聞きしちゃって。写真で盗み見た桃さんが来るなら、あたしも行かなきゃ!って張り切ったのに寝坊してこの時間」
なんだか見覚えのある笑い方であたしを見上げた彼女は、口元を押さえて肩を震わせた。
「だって、あの歩よ?女の子と付き合っても、すぐ別れちゃうのに男だと1年半も続いてるのよ?あの子ラーメン以外はなんにも長続きしないもの」
彼女は声にまで楽しそうな様子が滲み出ていて、あたしは瞬きを繰り返した。頭の回転は速い方だと思っていたのについていけない。
兄が兄なら弟も弟……そしてそれを産んだ母はとても強い。
「あっ!歩!!」
彼女の指さした先には珍しく制服を乱さず着た歩ちゃんの姿が見えた。噂の生意気な彼が彼女と、その隣のあたしに気づいて驚愕の表情を浮かべる。
その口が「なんで?!」と動いた。
あたしが理由を聞きたいぐらいだ。
「やっだー!!あの間抜けな顔見た?笑っちゃう」
「おか、えーっと…」
なんて呼んでいいかわからず迷うあたしに、彼女は目を細め、得意げに笑う。
「桜。牛島桜……桃と桜だなんて運命感じない?」
キザなのは息子だけじゃなく母親もだった。
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