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卒業式【兎丸慧】
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式が終わり、みんなそれぞれの教室へと戻る。この学校で、この校舎で、このクラスでの最後の時間。
男子校でも泣くやつはいるし、我慢しているやつもいる。そして、俺の目の前のコイツのように普段と変わらないやつもいる。
「面倒くさいのが面倒くさいの連れて行きやがった…マジないわ」
誰かから連絡が来たのか、スマホを見つめる歩の眉間に皺が寄った。チッと大きな舌打ちをして、それをポケットへと戻す。
「卒業式に舌打ちすんのなんて歩ぐらいだと思う。ちょっとは切ないとか寂しいとかないのかよ」
「なんで?拓海とはどうせ遊ぶだろうし、お前と俺は同じ大学だしな。それに桃さんがお前らの隣に住んでんだから寂しいもクソもねぇ」
「じゃなくて。他のクラスメイトとか」
「例えば?」
そう聞かれても、最後の最後まで友達が出来なかった俺に挙げる名前などない。
奇跡的……なんかじゃなく、予定通り俺は大学へと合格した。どうしてそれが『予定通り』なのかは、俺の日頃の生活が大いに関係している。
学校で勉強して家に帰り、夕飯の後は受験勉強という名の地獄の時間が待っていた日々。
いざ勉強モードに入った時の、獅子原理佳先生の鬼畜っぷりは凄まじい。
俺は数字とアルファベットに追いかけられ、必死に謝る夢を何度もみたぐらいだ。
だからこそ受検本番では緊張なんてなく、寧ろこれで鬼の勉強タイムが終わると思うと安心して受けることができた。
だから俺は、自分の合格を『当然』だと思ってる。
その理由の1つはリカちゃんが協力してくれたから
そしてもう1つは俺が頑張ったから
どちらかが欠けていても合格は無かっただろう。
教室の扉が開いてうちの担任が入ってくる。
女顔の童顔でも、いい匂いがするわけでも、意地悪でもない教師らしい教師。
「みんな卒業おめでとう!!先生はお前らを誇りに思うぞ!」
真っ先に大声を上げ、もうすでに男泣きをしている熱血教師に歩が小声で皮肉を言う。
「本番で噛みまくって『しゃんねんしゃんきゅみ!』って叫んだくせによく泣けるよな」
「やめろよ、歩」
「あれの所為でせっかくの感動的な卒業式が台無しだって慰謝料とれねぇかなぁ」
お前のセリフも十分に台無しにしてる、と俺は心の中で歩にツッコミを入れた。
さすがに教室では噛むことなく順調に話すうちの担任だが、涙混じりじゃ何を言ってるのか全くわからない。あまりにも悲惨な状況が見てられなくて俺は窓の外を見た。
ここからの景色も今日が最後だ。
3年間着た制服も今日が最後。
本当に今日で全てが終わるんだと思うと、遣り残したことがたくさんあって悔しい。でも前に進めることは嬉しい。
悔しさと嬉しさと寂しさとワクワクと。たくさんの気持ちを抱えて俺は教室を出た。
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