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卒業式【獅子原理佳×兎丸慧】
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一気に切なくなって俺の眉間に皺が寄る。それをリカちゃんは人差し指で伸ばしてくれる。
「こらこら慧君、まだ泣かない。本番はこれからなんだから」
「泣いてない…っ!こんなんじゃ泣かない」
唇を噛んで堪える俺を見てリカちゃんは笑い、静かな部屋に囁きが落とされる。
「本当に可愛い」
「お前さ…それよく言うけど高校生の男に言う言葉じゃねぇよ」
「いいんだよ。俺のは色んな意味を込めての可愛いだから」
「その意味がわかんない」
リカちゃんがよく言う可愛いって言葉。それは例えば小さい子とか動物とか、とにかく見た目が可愛らしい物に対する言葉だと思う。
俺は身長だって平均ぐらいだし、女の子のような見た目でもない。それなのに可愛いを繰り返すリカちゃんを睨んだ。
するとリカちゃんは頬の手を髪に移動させ、毛先を指に巻き付けて遊びながら言う。
「可愛いものって守ってやりたいって思うだろ?それは見た目じゃなくて仕草とか言葉とか、空気とか色々あんの。俺だけが知ってる慧が可愛い」
「……へぇ。そんな俺いないと思うけど」
「いる。誰がなんと言おうと、いつまでも俺のお姫様は慧だけだから。5年後も10年後も言い続ける」
スラスラと出るリカちゃんのキザ過ぎるセリフに俺は顔を覆った。
恥ずかしいのと寒いのと、照れと。いつまでも変わらないリカちゃんへの気持ちと。
たくさんの思いが溢れてきて、どう反応したらいいかわからないからだ。
「なんで隠すんだよ」
「なんとなく」
「隠すなってば。慧君の顔が見たい」
「無理無理。今は絶対に無理!」
顔を見せまいとする俺と、それを引き剥がそうとするリカちゃんの攻防が始まる。
まず左手を掴まれ、馬鹿力で捉えられて俺は右手だけで顔を覆った。でも上手く隠せてなくて、手じゃなく腕に変える。
腕へと顔を隠してしまった俺を見て、ようやく諦めたのかリカちゃんがため息をついた。けれどその手はまだ俺の左手を捉えたまま。
擽るように俺の指をなぞって遊んでいた。
しばらくして、ゆるゆると俺の指を握っては離してを繰り返していたリカちゃんが口を開く。
「慧」
もちろん俺は答えない。というより答えられない。
「けーい君」
間延びして俺を呼んだかと思ったら急に距離を詰めてくる。あまりにも反応しない俺に焦れたのか、指を噛んでこちらを向けと促した。
肌に刺さる痛みに非難しようとした俺よりも早く、それは姿を現した。
リカちゃんの手から解き放たれた指に光る物。
一部分だけを締めつける銀の輪が光を反射してキラリと輝く。
「なに……え、いつの間に?」
間抜けな声を出したのは俺だ。
薬指に現れたそれをリカちゃんがそっと撫でた。綺麗なカーブを描く表面を、細い指がたどり満足そうに頷く。
「さぁ?お姫様を喜ばせる為なら俺は魔法使いにだってなれるよ」
笑いながらリカちゃんが俺の手を取り、指輪にキスを落とす。
穏やかな日差しの中で、それはとても神聖に見えた。
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