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通勤時間帯を過ぎた道路は渋滞することはなく、車はスムーズに進む。
電車でなら1時間かかるのに車だとその半分で済む……っていうのは卑怯だ。けれど、さすがに車で通学する勇気はないから黙った。
ちなみに春休み中に免許だけは取ったので運転は出来る。ただし、俺の周りで車を持っていて日頃一緒にいると言ったらリカちゃんなわけで…リカちゃんが俺に運転させるかなんて、考えなくても答えは決まっている。
よって俺はペーパードライバーから抜け出せていない。
隣の運転席には一切変装をしていないリカちゃんの姿。同性ということを除けば、別にもう隠す必要はないからだろう。
そもそも、この男が同性だとかを気にするようなヤツではない。その証拠に俺の右手はリカちゃんの左手と合わさり、すっぽりと包まれている。
片手で運転しながら、もう片方は俺を触るのはリカちゃんの癖だと思う。
それを注意することを遙か昔に諦めてしまった俺は、窓の外を見た。
緩くかかったエアコンは適度に暖かく、眠気を誘う。思わず欠伸が出て、口元を押さえた時だった。
「……っ悪い」
繋がれていた手が突然に離れ、リカちゃんの左手が俺の身体を押さえた。前を走っていた車が急ブレーキで止まったからだ。
俺たちの方はそれほど急ではないものの、スピードを失った車が小さく揺れる。
「大丈夫か?」
覗き込んでくるリカちゃんの心配そうな顔。それに小さく頷き、答える。
「リカちゃんはいちいち大げさなんだよ。シートベルトしてんだから平気」
「大げさじゃないから。運転席より助手席の方が危険なんだからな」
それは教習所で習ったけど。本能的に自分を庇う、とかなんとかって理由らしいけど、リカちゃんは絶対にそれはない。
もし事故に遭遇したら第一に俺を守ろうとする。リカちゃんはそんな男だ。
前列車に文句を言うことなく、再び車を発進させたリカちゃんは前よりも距離をとって運転する。こういう時だけはリカちゃんから『普通』を感じる…こういう時だけは。
少しの間離れたことにより、お互いの手は、それぞれの体温に戻る。それが再び重なっても前ほどの温もりは感じない。けれど心は温かい。
フロントガラスから差し込む光がリカちゃんの左薬指にはめられたそれに反射し、キラキラと光った。
仕事中以外は必ず身につけている指輪。明らかにファッションリングとは違う『本物』を感じさせるシルバー。
ふと、俺を見たリカちゃんが笑う。
「慧君、前髪が邪魔だから耳にかけて」
左手は繋いだままでいたいからって、こうして頼んでくるのは嫌じゃない。
言われた通り、そっと髪を耳にかけてやると輪郭のいい横顔が露わになってドキッとした。
やっぱりリカちゃんは綺麗だと思った。
「ありがとう、慧君のおかげでよく見えるようになった」
「……邪魔なら髪切ればいいのに」
「それは嫌だ。もし大学生に間違えられたらどうする」
嫌そうに顔を顰めたリカちゃんに、さすがにそれは無いだろ…と思わず笑ってしまう。けれど鋭い目で睨まれて、咄嗟に空いている方の手で口を覆った。
口元を隠した俺の左薬指にも同じ銀の証が光り輝く。
穏やかな天候の元、穏やかな空気を漂わせ車は進む。
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