アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
41
-
テーブルに積まれていたのは厚みのある本。その表紙を見れば、それが何かなんて簡単に想像がつく。
マグを片手にやってきた俺に気づいたお父さんが、手招きして隣に座れと促した。てっきり触られるかと思ったのに、お父さんは俺に触れようとしない。それは、ここにリカちゃんがいないからで、お父さんが俺を触るのはリカちゃんへの嫌がらせだからだ。
「あんまり無いんだけどね。理佳が見せてやってくれって言うから」
そう言って開かれた表紙。そこには生まれたばかりの赤ちゃんの写真がある。
それがリカちゃんだとわかったのは、写真の隣に名前とか身長、体重が書かれていたからだ。
ページを捲るたびにリカちゃんは大きくなり、座っていたり立ったり、歩いたり……と、順調に成長していく。
柔らかい黒髪は小さな頃から変わらなくて、くっきりとした二重も鼻の高さもリカちゃんだ。
黙っていれば女の子にも間違われそうな可愛い男の子が小学生になり、しばらくして新しい家族が増えた。
「この頃にね、歩が生まれたんだよ。リカはもう11歳だったからねぇ……それはそれは、いいお兄ちゃんだった」
小さな歩の隣にはリカちゃんがいて、桜さんより慣れているように思えた。歩もリカちゃんに抱っこされている時が1番嬉しそうで、これを見ているとあのブラコンっぷりも納得できる。
写真1枚ずつを俺に見せてくれ、時々その頃の話をしてくれるお父さん。
中学を卒業する時のリカちゃんは、既にもう今みたいにすげぇ綺麗で周りよりも少し大人びた雰囲気がある。
制服は学ランだったらしく、そのボタンは全部なかった。この頃からモテまくっていたらしいリカちゃんの姿にムッとする。
けれど、その不満は一気に冷めた。それは次のページから真っ白に変わったからだ。
高校の入学式も、日常の写真も全くない。アルバムの半分ほどが未使用のまま残っていた。
「あの、この続きは?」
おずおずと問いかけると、お父さんは苦笑を浮かべながら首を振る。
「この辺りからギクシャクしだしてね、写真どころじゃなかったというか……桜ちゃんも仕事に没頭して、家族での会話なんて無かったかな」
「そう……なんだ」
「そうだね。歩が中学に上がるタイミングで離婚したし、理佳は高校を卒業してすぐ家を出て行ったからね。理佳が家を出て行ってからの歩の荒れようは酷かったよ」
くすくすと笑いながら、リカちゃんのお父さんはアルバムを閉じた。
写真の中のリカちゃんは笑っていて歩もすげぇ嬉しそうで、たまに写っていた桜さんも、お父さんだって笑顔だったのに。それが数年経てば、ばらばらになるっていうのがわからない。
けれど他人の俺が聞いていいとも思えない……気になるけど聞けないもどかしさに、ぼんやりとアルバムの背表紙を眺める。
するとお父さんは、なんともない声で爆弾を落とした。
「離婚のきっかけはねー、私の浮気らしいよ」
ふんわり笑ってサラッと、とんでもないことを言ったお父さん。その言葉と表情のアンバランスさに戸惑っていると、ゆっくりと言葉を続ける。
「毎日、研究ばかりで家には帰っていなかったし不安にさせたこっちが悪いのはわかってる」
「…………浮気、したんですか?」
急に敬語になった俺に、お父さんは静かに首を振った。
否定したってことは浮気なんてしていない…なのに離婚になっちゃったのはどうしてだろう。
この流れなら教えてくれる気がして問いかけると、お父さんは「わからない」と答える。
俺にはその意味がわからない。
違うなら違うって言って、ちゃんと説明すればいいのに。そうしたら、きっと桜さんもわかってくれたはずなのに。
「人の気持ちは簡単には戻ってこないんだよ、慧くん」
お父さんの一言が今の俺には大きく響いた。
まるで抱えている不安を見透かされているような、そんな気がする。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
857 / 1234