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時は数時間ほど過ぎ、今は昼休み。
今日は昼から同伴だからと帰った幸に代わり、目の前には金色の男がいる。
朝は赤で昼は金……目がチカチカしそうだ。
幸に許可をとり、歩にも幸が年上でホストであることは言ってある。それを俺が告げても、歩はたいして動じずに「へぇ」としか返してこなかった。
その理由は「だってあいつ女に慣れてんじゃん」という、これまた女に慣れている歩らしいものだった。
「慧、んで話ってなに?直接話したいつったのはお前だろ」
まだ呆けて名刺を見つめる俺から歩が奪う。取り上げたそれをポケットにしまい、正面から見つめられた。
わざわざ俺から歩を誘った理由、それは幸からのミッションがあるからだ。かなり不可能に近い……というよりも、自殺行為だとも言える任務が俺には課せられている。
「あの、さ。歩って木曜はバイト……だよな?」
「当たり前だろ。ゴールデンウィークに休んだ分稼がなきゃなんねぇし」
返ってくる即答。入りこむ隙もない歩の返答に、俺は肩を落とした。
幸が俺に言ったのは『合コンに歩も連れて来ること』だった。俺と幸、そして歩。もう2人いるらしいメンバーは幸がすでに呼んでいて、俺はなんとしても歩を連れて行かなきゃいけない。
それなのに目の前の男は、無表情で窓の外を眺めている。
「そのバイトって代わってもらえねぇの?」
「無理」
またも即答。
「じゃあさ、20時までとかって……」
「俺のシフト19時入りなんだけど。1時間で上がれるわけねぇだろ」
頬杖をついた歩が俺をチラッと見た。その顔はやっぱり何の感情も浮かべていない。
「っつーかさ、俺にバイト休ませてまでしたいことって何?」
ここで俺が「合コン」と言えば確実に歩は怒る。お前はバカかと呆れられ、ちゃんと考えろと叱られ、ウサギのくせに盛るなと皮肉を言われるのは確実。
最悪リカちゃんに告げ口されるかもしれない。
「人に予定聞いといてお前は黙んの?」
何も返事しない俺に、歩は詰め寄ってくる。テーブルを挟んだ形で顔を突き付けられ、俺は焦った。
「それは……その…」
「あ?さっさと言えよ。煙草吸いに行きたいんだけど」
「だから、実はちょっと困ってて」
ついてしまった嘘をごまかすには、また新たな嘘をつかなきゃいけない。始まりは些細な不安からだったのに、いつしかそれは大きな問題へと変わる。
「前に言ってたサークルの飲み会ってやつ、断りきれなくて……」
俺は断ろうとしたんだけど強引に誘われ、渋々了承した。そういう自分を演じる。
だって半分は本当だし。ただ、サークルの飲み会じゃなく合コンっていう違いなだけだし。
バレないかの心配から自然と垂れた眉。それを見た歩が「わかった」と呟いた。
「お前がバカウサギで情けないウサギだっていうのはわかった。今回だけは助けてやる」
「歩…!!すっげぇ余計なこと言われてる気がするけど、それは許す」
人をバカだとか、情けないとか悪く言ったことは聞かないことにして、俺は歩に強く頷いた。
すると歩は「ただし」と付け加えてくる。
「俺はバイトは休めない。その代わり、そういう場で役立つやつを用意してやる」
「役立つやつ?お前友達いたっけ?」
俺と同じぐらいのコミュ症の歩が言った「役立つやつ」の正体。それは次の口ぶりでわかった。
「大丈夫。あいつバカだけど人には好かれるし、バカだけど知らないやつとも問題なく会話できるから」
俺の頭に浮かんだのは1人。ほんの数日前に会ったばかりの鳥飼拓海だった。
「確かに拓海ならバカだけど、そういう場で役に立ってくれるかも」
納得した俺に、歩は何も言わず2回、頷いた。
「拓海が来てくれるなら俺も助かる!」
歩よりも俺に甘い拓海。男も女も関係なく仲良くなれる拓海なら、きっと幸とも上手くいくはず。
歩にしては珍しい気遣いに、人生初めての合コンも乗り切れそうな気がする。
「歩、お前ってたまに良いやつだな!」
「たまには余計。んじゃ俺もう行くから」
向けられる視線を無視し、喫煙所へと歩いて行く背中。それに向かって「ありがとう」と告げると、タイミングよく歩が首の裏を掻く。
照れた時にする歩の癖に、思わず笑ってしまった。
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