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夕方まで桃ちゃんと美馬さんと過ごし、リカちゃんから帰ると連絡が来た俺は家に戻る。晩飯はもちろん作れないから、風呂の掃除だけでもしようと浴室へ向かえば、そこは既に綺麗に掃除が済んだ後だった。
特にすることもなく、適当にテレビをつける。それでも暇でソファを転がっているとインターホンが鳴った。
画面に映るのは、鍵を持っているはずのリカちゃんだ。
「なにその荷物」
帰って来たリカちゃんの両手にあるのは紙袋。朝は持っていなかったその正体を訊ねると、少しだけ嫌そうな顔で中から何かを取り出す。
リカちゃんの手によって現れたのは、見覚えのある本……拓海がよく読んでいる雑誌だった。
リカちゃんは決してダサくはないけど、流行を追うタイプじゃない。服を買いに行っても、売ってある物の中から自分に似合いそうな物を選ぶタイプだ。
普段は雑誌なんて見向きもしないリカちゃんが、大量に買ってきたそれ。
意味がわからなくて首を傾げると、少しだけだった嫌そうな顔が『かなり嫌そうな顔』に変わった。
「あのクソガキ……俺に向かって、高校生のこと何も知らないくせに教師ぶんなって刃向かってきやがった」
「クソガキ?」
「鹿賀だよ。勉強はできるかもしれないけど、性格に問題があり過ぎる……あれは報告書以上だ」
噂の問題児とやらに何か言われたのか、リカちゃんは手に取った雑誌をパラパラと捲る。
何も知らないと言われて知ろうとする姿勢は、素直に凄いと思うけど。
「チッ……思い出すだけで腹が立つ」
出る言葉と舌打ちはリカちゃんらしくなく、その表情は凶悪を通り越して殺人犯みたいだ。写真で見た鹿賀を、笑いながら抹殺するリカちゃんを想像して身震いした。
着替えることもせずページを凝視するリカちゃんのスーツの裾を引っ張る。すると気付いたリカちゃんが、やっと顔を上げた。
「晩飯、どうすんの?もう7時過ぎてるけど」
明日は日曜で特に予定もないから、少し遅くなっても構わない。それなのに俺がリカちゃんに声をかけたのは、あまりにも本に夢中になっていたからだ。
半日ぶりに帰ってきたのに、こうして放置されていることが嫌だった。
壁に掛かっている時計を見たリカちゃんが、やっと着替える為に寝室へと向かっていく。部屋着に着替えてから、昨日食べ損なったドリアを作ってくれたけれど、いつもと少し違う。
まだリカちゃんの頭の中には鹿賀ってやつがいる。
鹿賀がどんなやつで、何を話したのか聞けば教えてくれるだろう。けど、正直言って聞きたくないと思った。
それよりも、2人でいる時ぐらいは他のことを考えるなって思ってしまう。
もうリカちゃんは俺の先生じゃない。顔も名前も知らないやつらの先生だ。だから家では『リカちゃん先生』を見たくない。
俺が見たいのは優しく相槌をうつ先生じゃなく、バカみたいに頬を緩ませるリカちゃん。意地悪く目を光らせ、口角を上げて性格の悪い笑い方をするリカちゃんだ。
学校では見せない、そんなリカちゃんに戻って来てほしくて手を伸ばす。
食べ終えた食器を片付けていたリカちゃんの身体に背後から抱き付き、細い腰をしっかりと抱きしめる。
「慧君?」
突然抱きついた俺に、頭上からリカちゃんの戸惑った声が聞こえる。
心の中で恥ずかしい気持ちと不満を戦わせて……瞬間で決着がついた。
「リカちゃんって俺と仕事どっちが大事?」
それは、俺が言われたら確実に「ウザい」と思ってしまうセリフ。
土曜日でも仕事に行き、問題児に突っかかられ、疲れて帰ってきたリカちゃんに言うべきではない言葉。
口にした俺は、上げられない顔を目の前の背中に突っ伏す。
今すぐ穴があったら入りたい。いや、自分で掘って隠れたい……そんな気分だ。
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