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遅めの朝食を食べる俺の前には、新聞を読む鹿賀がいる。高校生のくせに年寄りくさいな、と思いつつも気になるのは別のことだ。
「お前、学校は?」
もうとっくに学校が始まっている時間。リカちゃんが仕事に行ったのなら、臨時休校なんてことは絶対にありえない。それなのに鹿賀は、急ぐでも焦るでもなく、のんびり過ごしている。
「またサボったのか?」
呆れつつ鹿賀に訊ねると、より呆れた顔が返ってきた。
「違いますよ。微熱があって休んだんです。もうテストも終わったし、無理して行くところでもないし」
「どう見ても元気そうにしか見えないんだけど」
「気のせいじゃないですか?」
これだけ言い返せるのなら、そんなに酷くはないらしい。ちょっとだけ顔が赤い気もするけれど、それ以外は具合が悪そうには見えない。
そうこうしている間に、俺の方が時間が危なくなってきた。急いで残りを胃に詰め込み、食器をキッチンへと下げる。
「なあ、鹿賀。暇ならレベル上げしといて」
「なんで僕がそんなことしなきゃ駄目なんですか?」
「いいだろ。サボってるみたいなもんだし」
電車の中でしようと思っていたゲームを鹿賀に渡すと、渋々ながらも受け取る。昨日知った鹿賀の実力は結構なもので、1日あればいいところまでいけそうだ。
手早く支度を済ませ玄関へと向かう。俺の後ろには、なぜか鹿賀もついて来た。
「なに?お前一応は病人なんだから寝てろよ」
「……て………い」
「は?」
もごもごと口を動かし、明後日の方を向きながら鹿賀が何かを口にする。けれど全然聞こえなくて俺は首を傾げた。
「なんだよ、言いたい事あるなら早くしろって」
こうしている間にも時間は過ぎていく。のんびりしていたら、電車に乗り遅れてしまいそうだ。
「俺もう行くからな」
鹿賀に背を向け、玄関のドアノブを掴む。その背後から、今度はちゃんと聞こえた。
「行ってらっしゃい」
「え?」
「だから…っ、気をつけて行けって言ったんです。そうやって呆けてたら、事故に巻き込まれますよ」
言い捨てた鹿賀は、勢いよく顔を背けた。けれど見えている耳が赤くなっていて、いつものような刺々しさは感じられない。
俺も鹿賀のことを知らずに毛嫌いしていたけど、鹿賀もそうなのかもしれない。お互いに距離がわからなくて避けていただけ。そう思うと、なんだか鹿賀もまだまだ子供なんだなって感じた。
まるで弟ができたような感覚。歳の離れた兄ちゃんしかいないから、すごく新鮮に思う。
「帰りにお前が昨日読んでた漫画の新刊買ってきてやるよ」
「ふん、それが1日レベル上げさせられる報酬だなんて安すぎます」
「1日しろなんて言ってないだろ。バカかお前」
今までだったら険悪だった言い合いも腹立たない。早く行けと急かされても、うるさいと軽く返すことができる。
押し出された玄関からは、鍵をかけた音が聞こえた。きっと足音荒く廊下を進み、ソファにふんぞり返って俺の悪口を言うんだろう。
そして頼んだ通りゲームを始めるんだと思う。
「あいつ……意外と単純だな」
足取り軽く大学へ向かい、定位置である窓際の後ろの席に座る。
仲がいいとは言えないけどマシになった鹿賀との関係……あと気になることと言えば、1つ…いや、1人だけだ。
「ウサマルおはよ。なんや、今日はめっちゃ機嫌ええやん。あれやろ?噂の彼女ちゃんと上手くいってるってことやな!」
となりに座った蜂屋幸の横顔。
怪我は増えていない……けれど、昨日は気にならなかったはずのものが現れていた。
「幸、お前その隈どうした?」
垂れ目の下にできた濃い隈を指さす俺に、幸は笑う。
ただ、笑うだけだ。
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