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「歩、俺はお前がいてくれて良かったと思う」
「あ?」
「そうだよな。俺とリカちゃんはカップルだもんな……カップルなんだよ」
「お前まで壊れたのか?関わりたくないから俺はもう行く」
そそくさと立ち去ろうとした歩の腕を掴む。その力があまりにも強かったのか、振り返った歩の口元がひくひくと動いた。
「もう関わりたくないんだって。お前らに関わると、絶対に後悔する」
「そんなこと言うなよ。俺たち中学からの友達だろ?」
「今この場でやめる。だから放せ」
そんなことを言われて放すわけなどない。幸がいない今、俺の話を聞いてくれるのは歩だけだからだ。
鹿賀の放課後まで時間は少なく、俺が縋ることができるのは歩しかいない。
「なあ、歩。俺がまた変なことしてリカちゃん怒らせたら。お前だって困るだろ?な?」
緩く笑って言うと、歩はしかめっ面で首を振った。
「いや、俺は知らなかったで貫き通すからいい」
「じゃあ俺、歩に相談したって言う。リカちゃんは俺の言うこと信じてくれると思うし」
卑怯だと唸った歩は、観念したのか力を抜いた。2人でベンチに座り、ふと時計を見ると次の講義が始まる時間はすぐそこだ。
「歩は次って休講?」
「じゃないって言ったら解放してくれんのかよ?」
「やだ」
はあ、とため息をついた歩が煙草を取り出した。喫煙所じゃないけれど、周りに誰もいないから平気だと思ったんだろう。
本当は駄目な行為でも、俺の話を聞いてくれるなら注意するつもりなんてない。
「……次は出るからな。1時間だけなら相手してやる」
嫌々ながらも聞く体勢に入った歩に、今朝あったことを話す。
鹿賀と最近話せるようになったことも含め、意味不明な『恋人』の誘いまで。とりあえず、この後また話す予定だと告げると、短くなった煙草を踏み消した歩がため息をついた。
「お前は、なんで面倒なやつにばっかり好かれんだよ……いい加減にしろ」
「え、俺が悪いみたいに言うな」
「みたいじゃなく悪い。お前の態度が、その元不登校児を煽ってんだろうが」
どう考えても俺は悪くないはずなのに、歩の呆れは俺に向けられていた。意味がわからなくて首を傾げると、その呆れの色はさらに濃くなる。
このままじゃ見放されかねないと思い、さりげなく歩の服の裾を掴んだ。
「じゃあ歩だったらなんて答えた?」
鹿賀の、あの意味不明な誘いに歩なら何と答えるのだろう。訊ねると仏頂面はそのままで返ってくる。
「俺なら勝手にしろって言う。そいつが兄貴に直談判して叩き潰されても、別になんとも思わない」
「それは冷たすぎないか?」
「普通だろ。相手がいるやつに向かって、堂々とそんなこと言ってくる方がおかしい」
歩の言っていることは正しい。俺だって断ったし、頷くつもりもない……けれど、リカちゃんと鹿賀が揉めるところも見たくない。
鹿賀は、思っていたより悪いやつじゃない。ちょっと不器用で、ひねくれてて、そのくせ頭がいいから理解されづらいだけだ。
それがわかってしまったからこそ、あまり冷たくできない自分がいる。
見えない答えに悩んでいると、半目の歩が俺を見る。
「っつーかさ、そいつの不登校の理由ってそれじゃねぇの?」
「それ?」
どれだろうと考えて、答えが出るより早く歩が教えてくれた。
「人のものに手を出したとか。男が無理なら、友達の彼女を好きになって迫ったとかな」
歩の言った台詞に、数日前に会った男を思い出した。幸の知り合いで、幸を一方的に責めたやつ。幸がおかしくなるキッカケを作った、あいつを思い出す。
『人のものを奪うのが好き、それを壊すのが好き』そういった感じのことを告げたあいつは、幸とどんな関係なんだろう。
何気なく、思い出して今はそれどころじゃないと頭の片隅から消す。
もしリカちゃんが誰かに強引に迫られていたら、俺だってそいつを許せない。今回と同じような事を鹿賀が友達にして、それが理由で学校に行きづらくなったとしたら……
そう考えて、それはないなと思った。
「鹿賀はそんなことするタイプじゃないと思う」
否定した俺に、歩の黒い目が向く。
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