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高校から少しだけ離れた場所にあるファミレスは、俺にとって馴染みのある店だ。昔はよく拓海と歩の3人で来た店に、今はなぜか鹿賀といる。
店の奥の窓際。時々通る制服姿の学生に、鹿賀が手を振ったりすることはない。
「なあ、お前マジで友達1人もいないのか?」
澄ました顔の鹿賀に訊ねる。
「急に何ですか?」
「さっきから誰が通っても目すら合わせねぇから。知ってるやつの1人ぐらいいるだろ」
鹿賀は店の外を一切見ない。見るのは俺と、手元のグラスだけだ。
「知り合いだからって、会話しなきゃいけない法律はないです」
「また変なこと言う……やっぱり俺にはお前がわかんねぇ」
ため息をついたと共に、グラスの中の氷が崩れた。表面の揺れが収まったタイミングで、本題に入る。
「朝のことなんだけど。なんで、あんなこと言い出したわけ?」
「あんなこと?」
「その……形だけでも付き合え、とか。色々と」
ああ、と頷いた鹿賀が鞄の中からノートを取り出す。その最後の1ページを切り取り、俺に見せた。
そこには、つらつらと何かが書かれていて、それを読めと促してくる。
「授業が暇だったのでシュミレーションしてみたんです。僕と兎丸くんが付き合うメリットとデメリットを比べて、どちらが大きいか」
「授業が暇って……。っていうか、そんなのデメリットしかないに決まってんだろ」
「そうでもないですよ。もし万が一、先生と兎丸くんの関係が露見した時、兎丸くんの恋人は僕だって言えるし。その為には、周囲にも僕と兎丸くんが恋人関係であると告げておく必要がありますけど」
「更に意味わかんなくなったんだけど。それって俺にとってのメリットで、お前には何の関係もなくねぇ?」
頷いた鹿賀に紙を突っ返す。こんなもの読んでも俺の考えは変わらないし、鹿賀の言っていることを理解できるとも思えない。
そもそも、鹿賀はそういう意味で俺を好きじゃない。それなら、どうして俺に……俺とリカちゃんに協力するのか。
そこが1番大事で、その裏に鹿賀の本心が隠されている気がした。この小難しいクソガキが、ボランティア精神で俺たちを心配しているとは、到底思えなかったからだ。
「お前にとってのメリットを教えろよ。男が好きじゃないお前が、わざわざ相手のいる俺を選ぶ理由を」
「嫌だなぁ……本当にただの善意で言ってるんですけど」
「嘘つけ。お前の性格の悪さは、リカちゃんと同じレベルなんだからな。そんなお前が善意とか持ってるわけない」
ぴしゃりと言い切った俺を見て、鹿賀の口元が引き攣る。
初めて鹿賀の言葉を詰まらせてやったかもしれない。いつもは言い負かされ、唸っていた俺が。年下の生意気な高校生に、やっと年上の余裕と経験値の差を見せつけてやれたかもしれない。
歩は俺のことを頼りないように言ったけれど、俺だってやる時はやる。言う時はガツンと言ってやれる男なんだって証明できて、満足感が募った。
黙ってしまった鹿賀に慰めの言葉を送ろうと、俺の知っている1番の言葉を探し、口を開く。
「鹿賀、手の込んだ悪戯だったけど、そんなのに焦らされる俺じゃない。そうやって人をからかうのはやめて、お前も友達の1人ぐらい作れよ」
ここに拓海が居たなら、お前が言うなって言われそうだけれど。幸いにも、今この場所には俺と鹿賀しかいないわけで、今回の勝者は俺だ。
ふふん、と鼻を鳴らしメニュー表を手に取る。このまま夕飯も済ませてしまおうと開いたそれが、視界から一瞬で消えた。
「家族でもなくて、血の繋がりもない。友達だったとしても、他人は他人。だから僕は他人なんだ…って、他人だから近寄るなって言われました」
鹿賀にしては珍しく、整理整頓のされていない台詞だった。拗ねているような不満そうな顔で言って、そっぽを向く。
「別にどうでもいいですけど…他人って言われるのは気に入らない。だから他人じゃなくない、ちゃんとした立場がほしいんです」
会話を始めてからどれぐらい経ったかわからないけれど、謎は深まるばかりだ。俺の勘の鋭さが、全く発動しない。
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